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1950年代、ピエール・バルマンはクリストバル・バレンシアガや、クリスチャン・ディオール（既号63.ディオールのシルエット）と並んでビッグスリーと呼ばれ、パリ・オートクチュールの中心的デザイナーであった。親交のあった画家クリスチャン・ベラールが、上流階級のマダム達を次々と紹介、独立当初から多くの貴婦人達の、クチュリエになることができた。ハリウッドのエバァ・ガードナー、マレーネ・デートリッヒ、フランスのブリジッド・バルドーなど、大女優達のドレスを手掛ける。1970年代には皇后陛下の衣裳デザイナーを努めたことがあり、両陛下が訪欧や訪米をする際、皇后のドレスをデザイン・制作した。それを切っ掛けに日本でも、多くのファンを得ることとなった。バルマンは1914年に、スイス国境に近いピレネー山麓の街で生まれた。父は紳士服の卸売業で、母は婦人服のブテイックを経営。バルマンが幼少の頃に、父が死去したために、母の手によって育てられる。パリ国立美術学校で建築を学ぶが、幼少時から身近にあったファッション関係に転身する。イギリス人デザイナーのエドワード・モリヌーにデザイン画を見せ、高い評価を得たことから、1934にモリヌーのメゾンで働く。1936年には、ルシアン・ルロンのメゾンでモデリストとなる。そこではディオールも、モデリストとして働いていた。第二次世界大戦では招集を受けたが、休戦となって母のブテイックを手伝っていたところ、ルロンからドイツ占領下のパリに呼び戻された。そこでもディオールと一緒に働くことになった。1945年の夏、フランソワ・プルミエ通りのアパートの一室を母の援助で借り、自らの名を冠したメゾン「バルマン」を開設して独立。戦争が終わったばかりだったため、素材の調達や資金面でも非常に苦しい時期であったが、コレクションの発表だけは続けていた。バルマンのコレクションの特徴は、シンプルでカラフルなデザイン。ディオールがニュールックを発表した時には、バルマンも８ラインと同様のウェストを細く絞ったラインを発表して大きな話題となる。
バルマンの優雅な作風は、世界中の上流階級の婦人達に人気が高かったことから、映画や舞台の衣裳も積極的に手掛けるようになり、演劇舞台の世界では最高の賞である、トニー賞の衣裳デザイン賞を受賞したこともある。また、理論家でもあるバルマンは、ヘラルド・トリビューン紙主催の講演会で、堪能な英語を駆使してモード美学の講義をしたこともある。オートクチュール組合付属学校でも服飾史を担当。ラジオやテレビの講演などにも、多数の出演依頼を受けていた。バルマンは香水もモードを表現する一つと考え、独立してから間もなく香水のクリエーションを始めた。最初の香水はアトリエの住所から命名したElysees64-83だった。その後、ヴァンベール、ジョリ・マダム、イヴォアール、オードアマゾンなどがヒットして、現在に至るまで高い人気を得ている。何と言っても1964年に発表したメンズラインのムッシュ・バルマンは最高傑作である。香りの基調はシトラス・フローラル・フレッシュで、60年代に創られたとは思えない個性を漂わす。イエローカラーに黒色のロゴは、燦々と輝く太陽を思わせるパッケージ。フレッシュでバイタリティーに満ちあふれた香りは、デイタイムに品良く弾けたい殿方にお奨めの逸品。さらに殿方にお奨めのアイテムは、カラーバリエーション豊富なネクタイである。ブランド・ロゴの入ったＢＯＸは、ギフトにも最適なアイテムとなっている。今年の秋冬コレクションは少し濃いめの色調がお奨めとか。シンプルかつシックなデザインで、できる男のお洒落で、粋な襟元を演出してくれます。
ヴィヴィアン・リーもバルマンの、デザインしたドレスの大ファンの一人であった。リーはイギリスの舞台演劇から、女優としてのキャリアが始まった。1932年にハーバート・リー・ホルマントと結婚。翌年には娘のスーザンが生まれた。しかし、1935年にローレンス・オリヴィエと知り合い恋に落ちる。オリヴィエの妻である女優のジル・エズモンドは妊娠中であったという。リーは1939年に夫と娘を残して、ハリウッドに進出していたオリヴィエを追って渡米。リーはオリヴィエの兄マイロンの紹介で、メトロ・ゴールデン・メイヤーの撮影所に入ることが許された。撮影所ではヒロインが決まらぬまま「風と共に去りぬ」の、アトランタ炎上のシーンが撮影されていた。そして、その場でプロデューサーが「スカーレットがそこにいた！」と叫び発掘された。このスカーレット・オハラ役により、リーはハリウッド映画初出演で、アカデミー主演女優賞に輝いた。1951年にはマーロン・ブランド（既号223.若者達のジーンズ ）の出世作となった「欲望という名の電車」で、再びアカデミー主演女優賞を受賞する。この二本の映画は英国アカデミー、ニューヨーク映画批評家協会、ヴェネチア国際映画など数々の賞を得た。しかし、何と言ってもリーの映画では、1940年に公開された「哀愁」をベスト１に挙げる人が多い。ロバート・テーラーと共演して、多くの女性ファンの涙を枯らした映画であった。『1940年の燈火統制中のロンドン。ローイ・クローニン（ロバート・テーラー）大佐はフランスへ赴任するため、ウォータルー駅へ向かっていた。駅の近くにあるウォータルー橋に差し掛かったとき、車を降りて橋の欄干にもたれかかった。霧に霞んだ街を見つめながら、遠い遠い過去の思い出を振り返った。1917年、25歳の陸軍大尉であったローイは、フランス戦野へ出征の途中、ロンドンで休暇を楽しんでいた。その時、空襲のサイレンが鳴り、人々はウォータルー駅の避難所へ駆けだした。その最中、まだ女学生のように若く美しい女性が何かを落とした。ローイは手助けをして一緒に避難する。彼女はマイラ（ヴィヴィアン・リー）と名乗り、バレエ団のダンサーだった。翌日、ローイは彼女の舞台を見た後に食事に誘う。しかし、バレエ団の厳格なキローワ女史は、マイラに外出することを禁じる。マイラは同じ寄宿舎で生活する親友のキティの助けで、部屋を抜け出してローイと逢った。翌日、ローイはマイラを訪ね結婚を申し込み、次の日に挙式することを約束。しかし、運命の悪戯はローイに出発命令を下した。早速、ローイはマイラに手紙で知らせるが、マイラが駅に駆けつけた時には、列車が走り去って行くところだった。マイラは愛する人を垣間見たけで、言葉も交わせず落胆して劇場に戻った。キローワ女史は舞台を無断で穴を空けたとして、手助けしたキティ共々解雇されてしまった。マイラはローイの母に逢いに行く決意をし、待ち合わせ場所のカフェで地元紙に目を落とした。そこにはローイ・クローニン大尉が、殉死したことを報じていた。その場で卒倒してしまったマイラは、病床に伏してしまう。嬉しさのあまり蓄えたお金の全てで、結婚衣裳を買ってしまったマイラは、無一文になっていた。一緒に解雇されたキティが生活を支えてくれたが、それも長続きすることはなかった。やむなくキティは夜の女となって、生活の糧を得る日々が続いた。やがて、マイラは全快して事情を知り、キティの友情に涙する。戦時中で就職するあてもなく、ローイ亡き後の生き甲斐を失ったマイラは、生きていくためには、自分もキティと同じ仕事に陥るしかなかった。一年後、マイラが見た新聞は誤報で、ローイが凱旋して帰ってきた。ウォータルー駅で二人は偶然逢ってしまう。マイラの変化に気づかなかったローイは、自分を待っていてくれたと喜んだ。マイラはローイがスコットランドの、旧家であるクローニン家の息子だったと知り、愛するが故に悩み苦しんだ。このまま結婚しても、あまりにも違い過ぎる身分。それに我が身の今の生活が知れれば、ローイの破滅になる。追うローイを振り切って、マイラは身を隠そうとした。マイラは何時しか思い出の場所、ウォータルー橋のたもとに来ていた。マイラは何をどのように考えても、ローイに幸福を与えることはできないと思った。そして、思い詰めたマイラは突進してくる軍用トラック前に身を投じるのだった』
バルマンはレディース・ファッションだけにとどまらず事業を拡大。バルマン・ウォッチやアクセサリー・ラインのバッグや財布なども展開している。1982年にピエール・バルマンが死去。アシスタントを務めていたエリック・モルテンセンが、ブランドを引き継いで1991年まで担当した。1993年から2001年までは、オスカー・デ・ラ・レンタがデザインを担当。モルテンセンやデ・ラ・レンタは、比較的クラシカルでエレガントな、路線を打ち出し実績を残していた。2003年からはプレタポルテ部門を担当していたローラン・メルシェが、オートクチュール部門も担当。しかし、メルシェが引き継いだ後には、9.11テロ事件の影響等もあり、同社の売上高は2500万ユーロから、1150万ユーロと半減して苦境立たされ、一部にはデザイナー起用の失敗との声もあった。現デザイナーのクリストフ・ドゥカルナンは、よりモダンなデザインを打ち出している。今年２月の第81回アカデミー賞では、プレゼンターとして登場したニコール・キッドマンやジェニファー・アニストンは、身体にぴったり沿ったストレートラインのドレスを美しく着こなしていた。これとは対照的に助演女優賞に輝いたペネロペ・クルスは、まるでウェディングドレスのような、プリンセスラインが美しいバルマンのドレスを着用。ヴィンテージ・レースをふんだんに使ったフワフワの裾が、多くの視線を浴びていた。３月の09/10秋冬パリ・コレクションでも、ドゥカルナンのデザインした新作が発表され、関係者からは大きな反響を呼んだ。業績も順調に回復基調に乗って来ており、ブランド価値が完全復活したようである。
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