週刊「儲け創り」通信
〜創刊58号 2004年9月19日〜
発信人 株式会社 船井総合研究所 第三経営支援本部
チーフ 経営コンサルタント(儲け創り人)望月 隆之
この週刊「儲け創り」通信は、船井総合研究所の望月隆之が、経営者、ならびに経営幹部の皆様に、【高い顧客価値&満足(の創造)⇒高い粗利益(の創造)⇒高い社員価値&満足(の創造)】⇒高い企業価値&満足(の創造)⇒高い投資家価値&満足(の創造)という「善循環」をまわし続けるためのヒント・コツ・秘訣・勘所・ポイント・要点をお伝えしていくものです。
今週の「儲け創り」のヒント
「ピーターの法則」
望月が、今、お付き合いをさせて頂いている、ある優秀な経営者の方から、「ピーターの法則(ローレンス・J・ピーター ダイアモンド社)」というベストセラーの本を頂きました。ピーターの法則とは、「階層社会では、すべての人は昇進を重ね、おのおのの無能レベルに到達する。」というものです。企業組織という名の階層社会に置き換えて見ますと、「企業組織に所属するものは、無能レベルまで昇進する。」と言うことになります。営業担当として、非常に優秀だったので、営業課長にして、部下を持たせてみたら、部下の使い方がうまくなく、思ったような業績を残せない、とか、営業課長として、少人数の部下の使い方はうまかったが、営業部長にしたら、多人数の部下の使い方がうまくなく、思ったような業績を残せない、などのように、階層社会においては、今のステージにおける成功は、次のステージにおける成功を約束するものではありません。しかし、営業担当として、優秀なものから、営業課長にしてしまうことが、現実にはほとんどのようです。「名選手、必ずしも、名監督ならず。」とは、プロ野球界の名言(実際、その逆に、二流選手が、名監督になる場合も多い。)です。しかし、選手として実績を残した人間を、次のステージに昇格させると言うのは、二流選手を次のステージに昇格させて、もし失敗した場合のリスクを考えると、無難な選択でもあります。だから、次のステージで成功する確信があるかどうかと言うことに、いたずらにリスクをはるよりも、失敗した場合の言い訳が出来る点で、名選手を次のステージに昇格させてしまう方を選択しやすい。ただ、プロ野球の場合は、勝つことだけが目的ではなく、観客を楽しませるのが目的ですから、監督として能力の高そうな二流選手を監督にするよりも、監督としての能力に疑問符がついていても、人気のある名選手を監督にするという選択は、十分に納得がいくものです。しかし、企業組織では、そうは行きません。絶対に勝つ!絶対に勝ち続けなければいけないのです。ですから、そのためには、営業担当として、たとえどんなに優秀であっても、『人を使えるか?どうか』の1点において、使えない可能性の高い人を、次のステージに上げては、絶対に、いけません。営業担当としての優秀さは、企業組織の中で、次のステージを与えることで報いるのではなく、給与、賞与の人件費で報いるべきです。極端に言えば、営業担当としては、とりたてて優秀ではないが、次のステージの主たる課題である、人を使えるという課題をクリアできる可能性が高いという判断さえ出来れば、そういう人を、次のステージに上げるべきです。現実には、それほど多く発生する可能性は少ないかもしれませんが。また、よほどのことがない限り、現実には、難しいことでしょうが。営業担当としての能力はともかく、人を使えるという能力において、周囲の人が納得できるレベルにあれば、その人を次のステージにあげると言う選択が正しいと言えるでしょう。
ちなみに、私は、職業柄、非常に多くの企業に関わっていますが、営業担当として非常に高い能力を持っている人の替わりは、意外に、いくらでもいます。しかし、人を使える能力を持った人は、本当に少なく、非常に多くの企業において、常に求められているのは、こちらのほうです(企業組織において、いわゆる出世を目指すのであれば、営業実績をあげるのは、もちろん、大切ですが、それ以上に大切なのは、人を使える能力です。なにせ、稀少価値が高いですから。)。特に、これから、株式公開をしようとか、株式公開をしたばかりとかの成長ステージにある企業においては、のどから手が出るくらい欲しいところです。なぜなら、その成長ステージにおいて活躍している多くの人は、例えば、営業で言えば、営業担当としては優秀であると言う人ばかりだからです。経営層から与えられた具体的な課題を、自分の部下を使って、部下と一緒になって課題達成のために業務を遂行する『マネージャー』は、もちろん、経営層から与えられた『抽象的な課題』に対して、具体的な方法などについては、自らの頭で考えて動く『リーダー』などは、全くと言っていいほど不在だからです。その時に取るべき選択は、社外からの採用(ヘッドハンティングなど)か、社内からの昇格のどちらかになります。上手に社内からの昇格ができれば、一番望ましいわけですが、ここで問題になるのが『ピーターの法則』です。下手をするとピーターが、続出することになります。ここでの対応で大切なのは、昇格させようと思っている人に対して、次のステージでは、また、ゼロスタートになるが、それでも、新たなスタートをして、成長する自信があるかどうかを、きちんと事前に確認を取ることでしょう。次のステージに行くことは、また、別のジャングルに入っていくようなものだから、いいことばかりではないことを、事前に強調しておくべきでしょう。そのことで、その後の覚悟が違ってきますし、該当者が自分を見つめ直す良い機会になるからです。激しい競争を続けている現在の企業社会に存在する企業にとって、その企業組織における昇格の意味を正確に伝えることが大切です。一昔前の「論功行賞」的な意識で昇格をされたら、企業組織にとって不幸なだけでなく、本人にとっても不幸になります。ゼロスタートだがチャレンジしようという意識は、ピーターの法則に陥ることなく、いわゆる『一皮向ける』ことにつながる可能性を高くするでしょう。『ピーターの法則』に従えば、間違いなく、企業組織において、次のステージに上がることは、間違いなくピンチなのですから、「ピンチをチャンスに変える」不断の努力が必要なのです。その努力が、ピンチをチャンスに変え、『一皮向ける』ことを現実にし、次のステージでの成功へと導いてくれるでしょう。
繰り返しますが、企業組織において、次のステージに上がること=昇格することは、昇格させる組織と昇格する本人という両方にとって、間違いなく、ピンチです。組織も本人も相当な努力無しには、そのピンチをチャンスに変えることは出来ないのです。その現実を知れば、単純に『昇格、おめでとう!』などとは言えないということです。しかし、常に成長に挑戦し続けるのが、人間の素晴らしいところですから、昇格のチャンスの際は、常に、「気を引き締めて」昇格のピンチを受け入れ、そのピンチをチャンスに変えていきたいものです。
次のステージへ昇格させる条件について、望月がお付き合いさせていただいているある優秀な経営者が決められている「取締役に昇格させるための4条件」を、ご参考までに、ご紹介させていただきます。
@ まずは、役員になっても成長するかどうか。役員はゴールではないということ。
A トップにブレーキをかけられるかどうか。反対意見を主張できるかどうかということ。
B 自分の担当セクションをこなしながら、会社全体が見渡せられるかどうか。
C 父性と母性を持ち合わせているかどうか。部長くらいまでは、鬼軍曹対応で厳しさだけを持っていれば大丈夫かもしれませんが、トップを伺うポジションは、やはり、やさしさを持つ人間じゃないと無理だということ。
内部昇格か、外部採用かについては、結局、経営者が、企業の成長スピードを、どのように考えるかによって決めることでしょう。内部昇格中心で行くのであれば、当然、企業の成長は、遅くなります。企業の成長スピードを速めようとすれば、外部採用中心でまかなうことになるでしょう。この場合、例えば、ユニクロのファーストリテイリングのように、東証一部上場時には、創業時のメンバーはほとんどいないということになるでしょう。今、話題のライブドアや、楽天、そして、コムスンなどもそのようです。いずれかの手段をとるのかは、どちらが正しいというのではなく、経営者の人生観、世界観によって決められるべきことでしょう。もちろん、勝ち続けなければいけないことは、いずれの選択の場合も同じです。