日本経済新聞社と一橋大学大学院の伊藤邦雄教授は、コーポレートブランド(以下CB)
価値の測定モデルを、共同開発したとの記事が日経に掲載されていた。今週はこの記事を参考に企業ブランドの価値を考えてみたい。
企業経営で一番重要な目標は、企業価値を高めることである。自社の企業価値を高められない企業は、マーケットから淘汰されるという厳しい現実に経営者達は直面している。
ファション界ではバッグやネクタイなどの、有名ブランド品とノーブランド品では、素材価格はそれほど違わないのに、製品価格になると数倍にもなり、場合によっては十数倍の価格差となっている。すなわちブランドの有無による製品価値の違いである。
企業は有形資産と無形資産を持っているが、1990年頃迄は土地建物などの良質な有形資産を手に入れると、担保価値があり資金調達にも有効となり、企業価値も競争力も高めることができた。しかし、世界のマーケットにおいてはベルリンの壁が崩壊し、時すなわち国内ではバブル崩壊を境に、マーケットの仕組みと価値観が変わってしまった。90年以降は良質な無形資産を蓄積した企業が競争力を持つようになり、無形資産のなかでも特にCBの価値が重要視されるようになった。
キリンビールを凌駕したアサヒビールの「すべてはお客様の“うまい”のために」や、キャノンの「make it possible with canon」などのスローガンを、CB価値向上の広告戦略に使っている会社もでてきた。CBとはマーケットがその会社に対してもつ、イメージを決定づける無形の資産である。
それは自社と他社を比較したときに、他社には無い独自化した個性をもつことであり、自社の存在感と信頼感をマーケットに与える機能をもつ。
これは企業にとって長期安定的な顧客を持つことになり、近い将来のキャッシュフローと資本コストの改善につながり、株主から見た企業価値を格段に高めることになる。
さらに、高い価値をもつCBは、顧客・株主・従業員などのステークホルダーへの利益拡大にもつながり、ステークホルダー間のシナジー効果も生み出すことで、企業価値をより高くする牽引力ともなっている。今後は企業経営にとってヒト・モノ・カネ・情報に次ぐ重要な経営資源であり軽視できないものとなっていく。
マーケットの仕組みと価値観が変わった90年以降、株主重視で論理的経営のアメリカ型と、従業員重視で情緒的経営の日本型との是非が論議されてきたが、これから求められるのはそのような対立した考えではなく、双方の長所を融和させることを目指すべきで、ステークホルダーへの利益の連鎖と循環をつくることである。
そうした新たな経営モデルがCBを軸とした経営であると考える。CB価値向上には、企業としての使命を明確にし、使命を達成するための指針を示し、ステークホルダーとの価値観を共有し、自らも行動する規範を定めるなど、企業としての理念を掲げる必要がある。
今日のようにインターネットを駆使したビジネスモデルが凌駕してくると、CB価値の高い企業の優位性は決定的となってくる。日経の記事においてCB価値は、企業が自社のブランド力を基にして得られる、将来のキャッシュフローを現在価値に換算したものと定義している。
CBブランド価値は、CBスコア・CB活用力・CB活用機会を基本要素としている。
まず、CBスコアは企業の潜在的ブランド力を示す数値であり、顧客・従業員・株主のステークホルダーで構成される。顧客指標は顧客プレミアムが高ければ商品プレミアムも高く、営業利益率も高くなるとしている。企業の好感度・信頼性・商品やサービスの質などの企業イメージから、企業への忠誠度や認知度も推測できるとしている。従業員指標は営業利益を総人件費で割った数値である労働生産性と、新卒学生の就職意向や企業イメージからくる忠誠度から推測する。株主指標は株価純資産倍率や、認知度として株式の購入意向、そして顧客指標から推測している。
次ぎに、CB活用力とは前述のCBスコアが高いほど、その企業の潜在的ブランド力は大きいが、それだけではCB価値は大きくはならない。重要なことは将来に渡ってキャッシュフローを創出できなくては、CB価値は大きくならない。無形資産の利益貢献度や、そのうちのCBスコアを源泉とする割合、アナリストの客観的評価指数などで評価する。
さらに、CB活用機会の算出では業界ごとのCBスコアと活用力が、株式時価総額からバランスシートの純資産を差し引いた無形価値の向上に、どの程度結びついているかを分析している。以上のようなCB価値測定モデルを使った日経の調査結果をみてみよう。
トヨタ自動車は4年連続でCB価値、今年は増加額でもダントツ一位である。自社流の“ものづくり”を徹底して磨き、ブランドの魅力に結びつく事業展開を推進し、国内外で好調な販売を持続している。環境対応のプリウス、高級ブランド車レクサス、次々と海外における新工場の立ち上げなど、ステークホルダーの期待を高める施策を打ち出している。
前回の三位から二位にランクアップしたキャノンでは増加額でも二位となり、研究開発と特許戦略で創出した技術を、デジタルカメラや半導体製造装置などに展開し、日本経済団体連合会の会長企業として活発なイメージ戦略も展開している。
ベストテンにはホンダ、日産自動車、ソニーなど製造業が相変わらず頑張っている。昨年同様に 11位にランクされた松下電器産業だが、プラズマテレビ、DVDレコーダー、ななめドラム洗濯乾燥機など、松下の“顔”であるべき製品を連発し存在感を高めている。
増加額でも五位にランクされており、松下復活を印象づけている。
復活組には経済環境の変化に耐えられず低迷していた金融機関がある。不良債権処理に目処がつき、収益が改善して新たなCB価値創造に向けて、三菱東京ファイナンシャルグループは15位から12位へ、みずほファイナンシャルグループは43位から14位へランクアップした。一方、NTTドコモは三位とランクはひとつ下げただけだが、ライバルKDDIの“au”に圧された携帯電話のシェアを大幅に落として、CB価値を大きく減少させた。
この調査結果のように、CB価値を高めるには経営者がブランドがもつ価値を認識し、CB価値向上の施策を経営戦略に盛り込む必要がある。ブランディング広告だけを展開しても、製品と結びつかなければCB価値向上にはつながらない。良質の製品を次々と発売してCBにつなげていくことも必要な手段である。
企業内では社員もCBを意識するような社内コミュニケーションが必要であり、自社ブランドに誇りを持つようになれば、行動様式も変化して労働の質的向上も図れるだろう。
社内の行動規範についても、社内規律を作成しただけでは不祥事は防止できない面がある。
社員にCB価値を高める意識を植えつけることによって、社員に規律意識が芽生え、結果として社内モラルが向上することにつながる。
現在、勝ち組・負け組と言われる企業の違いは、CB戦略の成否となって現れていると云えよう。
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