ブランドに学ぶ 儲けを生みだすビジネス・コラム

桃太郎のビジネスコラム 125

☆ 緯度作戦で流行を追え☆

2006.11.14号  


ファッション業界では、商品を発売する頃には、どんなデザインで、どんなカラーが流行しているのか、先々を予測して商品企画をたてている。ユニクロを展開するファーストリティリングでは商品企画から発売まで90日と云われており、10代から20代の若い女性達に人気のハニーズでは30日から40日と云われている。しかし、一般的にはデザインを決めてから、商品が完成し、店頭に並ぶまで半年から一年を要している。
消費者ニーズは年を追うごとに多様化しており、商品寿命が短命となる時代になってきた。
国内外のアパレルメーカーでは、商品の企画・デザインの時期と、発売時期をできるだけ短期間に実現して、流行の波を捕らえようと凌ぎを削っている。
日本列島は南北に長く、地域によっては気温の差が極端に違っている。今年 3月の日平均気温の月平均値は、北海道・札幌で1.3℃、東京は9.8℃、沖縄・那覇では18.4℃である。北海道ではコートを手放せないが、沖縄では半袖の商品が売れ始まる季節である。
日本列島の緯度による地域の温度差に目をつけたのが、子供服・ベビー育児用品専門の西松屋チェーンである。西松屋チェーンは兵庫県・姫路市に本社を置き、都道府県の全てで 504店舗を展開している東証・大証一部に上場する企業である。子供服にも流行があり、その流行を確実に捕らえるために今年からスタートした戦略は、名づけて「緯度作戦」。

沖縄では3月にもなれば20℃を記録する日が増え、半袖シャツが売れ始める。そこで、沖縄で多くの種類の半袖シャツを売出し、その売れ行きを見て夏物商品の売れ筋を掴む。
この売れ筋商品だけを、中国の工場へ大量に追加発注をかける。その商品が中国から届く頃には本州の気温も上昇し、半袖シャツが売れ始める時期となる。ゴールデンウィークの頃には、売れ筋商品を大量に店頭に並べることができ、商品は販売地域を北上していく。
秋・冬物商品はその逆ルートで北海道から販売し、商品は順次地域を南下して販売される。
これまでは売れると予測した商品を、シーズン前に大量発注していたが、予測が外れると多くの在庫を抱えることとなり、売り切る為にはバーゲンセールに頼るしかなかった。
この緯度作戦では、北海道や沖縄でテスト販売し、その年の流行を見極めたうえで、売れ筋商品だけを大量発注していくので、値引きせずに販売する「正価販売率」が格段に向上し、利益率の改善に寄与している。

この緯度作戦を地球的規模で展開している企業がある。スペインに本拠を置くアパレルブランド「ZARA」である。世界60ヶ国以上に店舗を持ち、日本にも21店舗を展開しており「ヨーロッパのGAP」と呼ばれる急成長ブランドである。
急成長の秘密の第一は「商品化のスピード」である。東京・パリ・ロンドン・ミラノ・ニューヨークなどの、ファッションショーが開催される都市で、掴んだ流行を即座にデザインする。それから 1週間から 3週間で、最先端の流行を取り入れた商品が出来上がる。
秘密の第二は、「流通のスピード」である。EU圏内の工場で生産された商品は、直ちにスペインにある東京ドーム10個分に相当する巨大な物流センターに搬入される。そこで商品は消費地ごとに自動的に仕分けされ、近隣諸国への輸出にはトラック便で搬出され、日本やアジア諸国には航空便で輸出される。ヨーロッパ諸国には48時間以内、日本には中3日で商品が店頭に並ぶシステムが構築されている。コストは船便などと比較すると概ね3倍に膨れ上がるが、「鮮度こそZARAの命」とのポリシーが徹底されている。
このような商品化と流通のスピードが、デザインの時期と商品発売時期のインターバル短縮を可能にしている。この驚異のビジネスモデルを、日本を始めとする世界中のアパレルメーカーが注目している。

少子化時代に郊外立地で、11期連続増収増益を達成した西松屋チェーンの、062月期決算では、売上高951億円と、ついにライバルである「赤ちゃん本舗(899億円)」を上回り業界トップとなった。9月に発表された072月期の中間決算においても売上高 445億円、この中間期の新規出店効果もあり、前年同比で 6.7%上回った。粗利益は 11.4%増の151億円、営業利益は 42億円で 22%増を達成している。直輸入品の拡大、PB商品の好調、店舗拡大に伴うスケールメリットが貢献した。
今後は年間 70店舗前後の出店を継続する。10年までに 750店舗を出店する計画では、東北と九州地方の出店を拡大し、効率的な集客増加を図る予定だ。西松屋チェーンの郊外立地は 7万人の小商圏に、一店舗あたり約200坪で、年商 17500万円を標準のビジネスサイズとし、経常利益率は10%超を目指している。
このような快進撃を支えているのがローコストオペレーションである。現在の商品アイテムは約15000点もあり、今後は毎期 10%から20%を削減し、最終的には 1万アイテムまで絞り込んで、コストやロスの削減をはかる計画である。
店舗の運営においても、店舗内は無人かと思われるくらいセルフサービス化されており、店舗スタッフの少なさに驚かされる。店舗内の効率化は「人を減らすより、仕事を減らす」と作業の軽減化は徹底されており、スタッフは必要最低限の人数に抑えられている。
棚卸し作業も外部委託し、店舗の修繕等も現場の写真をもとに業者との交渉は、すべて本部で行っている。チラシや売出しの回数も極力減らし、売出し準備や後かたづけなどの作業軽減も徹底して行われ、日々の作業時間の平準化が図られている。店舗内での作業が減れば、従業員の総労働時間短縮となり、人件費の抑制にもつながっている。
一般の企業では幹部が会議で怒鳴るたびに、現場従業員の作業量が増える会社が多いなか、徹底したローコストオペレーションが実践されている。




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