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東京のファッション・ストリートと言えば、新興の「表参道」や「六本木けやき坂通り」が話題を集めている。一方、老舗が建ち並ぶ銀座では、この数年の間に高級ブランドの出店ラッシュが続き、世界屈指のファッション街となっている。そして高級ブランドの広報担当者や、地元の関係者達は口を揃えて「銀座は世界で最高級の街だ。他の街とは格が違う。銀座に本店を出さないと、世界的ブランドとして認知されない」と誇らしげに言う。00年11月に「ルイ・ヴィトン松屋銀座店」がオープン。外装設計はヴィトン表参道ビルや、名古屋栄店、04年にオープンしたニューヨーク5番街の店舗を手がけ、業界では若手と言われる青木淳氏(1956年生)が担当した。外観はガラス壁で昼間は薄白く目隠しされたように見え、夜には内部がうっすらと見える設計となっている。豪華に感じられる反面、気品のある雰囲気は、銀座という土地柄に溶け込んだデザインとなっている。同年12月には「バーバリー銀座店」が中央通りにオープン。近年のバーバリーは、日本での売上高を爆発的に伸ばしており、巨大マーケットである日本の、情報発信基地として銀座店を位置づけている。01年6月には外観がCIで統一された、グレーとブラックの落ち着いた雰囲気の「グッチ銀座松坂屋」がオープン。02年になり中央通りに「ブルガリ銀座店」がオープンし、巨大ジュエリーをイメージした、豪華なデザインが異彩を放っている。
03年3月にオープンした「プラダ ブティック銀座店」は、外観がプラダのカラーである黒に塗装された杉の木を、格子に並べた和風デザインで、床はミラノ本店の象徴である白・黒の大理石を用いてあり、銀座の街にフィットしながらも、強い個性を表現している。5月に「フェラガモ銀座中央通り店」がオープンした。最近のフェラガモは他ブランドから、デザイナーをスカウトするなど、イメージ転換を図っており、店舗内には歴史的作品を展示するギャラリーを併設し、銀座中央通り店に対する強い思い入れが感じられる。7月には高級店が建ち並ぶ並木通りでも、存在感が一際目立つカルティエが、本店からほど近いルイ・ヴィトン松屋銀座店の斜め前に「カルティエ銀座2丁目ブティック」をオープンさせた。外観の色使いは貴金属ブランドに、相応しい重厚な仕上がりになっている。04年になって並木通りに近い、みゆき通りに出店していたシャネルが、中央通り沿いの松屋デパート前に「シャネル銀座ビル」を新たにオープンさせたほか、クリスチャン・ディオールも晴海通り沿いに開店した。これらの他にも中央通りにはハリー・ウィンストン、ティファニー、フルラ、ランバンなど、並木通りにはショパール、ロエベ、ダンヒル、セリーヌ、バレンチィノ、コーチなどが建ち並び、高級ブランドは銀座全体に広がり、ファッション・ブランド街と化している。
三越呉服店として「デパートメント宣言」を行ってから100余年、伝統ある老舗百貨店が企業内改革に動き出した。東京・銀座の中心部にある銀座三越の、商品を売るなら日本一と言われる正面入り口の売場から、有名ブランド品が姿を消した。40年ぶりのリニューアルを機に、三越の改革メンバーは、大手百貨店が持つべき情報発信の役割を、取り戻すべく世界各国から集めた、流行への感度が高い商品に並べ変えた。大手百貨店は、エルメスやヴィトンなどの高級ブランドを、テナントとして入居させて集客を図ってきた。しかし、高級ブランドの人気が高まるにつれ集客効果は上がったが、百貨店本来の仕事である「商品への目利き」や「仕入・販売の企画力」が次第に薄れていった。当初は場所貸しによる安定収入にはなったが、高級ブランドは魅力の無くなった百貨店から撤退し、表参道や銀座などに自前で、大型の旗艦店を持つように戦略を転じた。「仕入戦略」も「販売戦略」もなく、品揃えやディスプレイも高級ブランド任せの場所貸しでは、独自の企画力など育つ筈もなく、百貨店は衰退傾向が止まらず、強い危機感を抱くようになった。三越の若手改革メンバー達は、自らのセンスを生かして商品を厳選する「目利き」で商品を発掘し、売上増に結びつけている。売れ行きが見通せない新進ブランドも、扱う事が可能となり、歳末商戦の売場ではイタリア製マフラーや、アザラシの毛皮の帽子など比較的単価の高い商品が売れ始め、改革の滑り出しは順調に推移している。小売業界の盟主を自認してきた百貨店も、スーパーやコンビニなどに押され、05年の売上はスーパーやコンビニの約21兆円に対し、百貨店は約8兆円にすぎない。場所貸し業から脱却して自力で流行を創り出し、盟主の座を取り戻すべく企業内改革に走り出した。
銀座では今年になっても、ファッション・ブランド街としての広がりが続いており、高級ブランドの旗艦店が出店したり、店舗のリニューアルが競うように相次いでいる。4月にドルチェ&ガッバーナが、並木通りとみゆき通りが交差する角にオープンした。6月には高級紳士服のエルメネジルド・ゼニアが増床。10月には並木通りと晴海通りの交差する角にあるコーチの隣に、エルメスが大規模なリニューアルオープンをした。11月3日にはグッチが青山、新宿に続く旗艦店として「グッチ銀座」(既号 NO.127 ブランド商品の元祖)がオープンした。カフェやギャラリーを併設し、ギフトカードも導入するなどサービス面でも新機軸を打ち出し、銀座店を最上格の店として位置づけている。グッチをはじめ、ボッテガ・ベネタやイヴ・サンローラン、ブシュロンなどを擁するグッチグループのロバート・ポレットCEOは「私達が売っているのは、商品ではなく”夢”」と語っており、売上の4割を稼ぎだすアジア地域での、情報発信源の役割も担っている。この波は来年になっても止まりそうもなく、5月にボッテガ・ベネタが出店。10月にはジョルジオ・アルマーニが本社機能を持つ、床面積8000平米と地域最大級の旗艦店を出店した。12月にはブルガリもティファニーの隣に2店目を予定している。銀座の街造りを推進している銀座連合会には、バーバリー、シャネル、エルメス、ルイ・ヴィトン、ティファニーなどが、組織をつくって参加しており、競合ブランド同士が協同で何かに取り組むことは極めて稀なことで、銀座ならではの取り組みだと言う。これほど世界の高級ブランドが銀座にこだわる理由は、「地域ブランドとしての伝統や格式」があり、「世界中にあるブランドの集合体(地)」になっていること。「情報の発信・収集」の感度と鮮度が良く、「高級感・高品質・斬新さ」を求める世界の富裕層を集客する能力に長けていることなど、他の地域にはない魅力を感じているからである。
銀座の有名ブランド・ショップ
2006/12/13 asahi.com より
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