本著では「ブランド」という事を取り上げています。ここで「ブランドとは何か」を考えてみようと思います。Brandを本来の意味で単純に和訳すれば「印」です。
昔アメリカで、牛を放牧したり、売って換金するために市場へ連れて行くとき、同業者の牛と間違ったり、泥棒に盗まれたりしないために、自分の牛がすぐに判るように牛のお尻に牧場主の「焼き印」を押しました(西部劇映画で牛泥棒を捕まえるシーンによく出てきます)。これが今日使われているブランドの意味の始まりと云われています。さらにその印を付する事により高級高価で販売する事に利用したのが、「商標」と云う意味に繋がっていったようです。
では、日本におけるブランドは、どのようにして発生したのだろうか。
足利尊氏が征夷大将軍になった室町時代には、義満が金閣寺を建立したり、いろいろな文化が栄えるようになった。当時は一人一人の職人や農民が製品を造っていたようで、造り手により出来の善し悪しがあったため、何処の誰の作というようなことはあったと思われます。しかし、売買にしても、物々交換にしても、何処で誰が造ったか、何処で売買するかで多少の価格差は有っても、大きな価格差は無かったようです。築城する場合にも何処産の石とか、何処産の杉材と云うような事はあったようですが、情報が少なかった事もあり、ブランド品として商いをするような認識があまりない時代だったようです。
戦国時代になり足利義政が銀閣寺を建立し東山文化が栄えた。銀閣寺に蟄居した義政は地味だが奥行きの深い趣味として茶道と出会い、一部粋人達の間にも趣味道楽として広まった。安土桃山時代になってからは茶器などが、千利休が褒めただけで築城するくらいの価格になり、利休自身も利休の目に叶った茶器類もブランド品となった。
徳川幕府の時代になってからも「将軍様御献上の品」「藩の大名様御用達の品」となれば、地域の絹織物などの特産品、焼き物師が焼いた茶碗、飾り職人が造った装飾品などを、桐の箱などに包装して、荷車には殿様の家紋(これも家柄のブランド)がついた布で覆い、行列をつくって事故が起きないように運ぶようになった。
これらは買う人の身分やその製品を認めてくれた人の身分によって価格が決定され、商品としてのブランドが認知され、当然の事として価格も跳ね上がった訳です。(テレビドラマの「水戸黄門」などを見ていると、御献上品や御用達の利権に目を付けた悪代官が横やりを入れ、御用商人共々私腹を肥やすパターンになるわけです。)
ヨーロッパなどにおいても日本と同様にブランド化していったと思われます。王室や権力者達などの御用達になってから一般的に認知されるようになり、現在にいたるまでブランド力を高め続けているモノが数多く有ります。次にブランド品にはどのようなモノがあるのか整理してみました。
一番目は伝統・暖簾・老舗とか云われる「トラディショナル・ブランド」です。
宮中や将軍など時の権力者が趣味・道楽や特定の地域振興とか何らかの意図を持って主導して製品化したモノやその道で稀にみる秀才が現れて造ったモノが、優れた技能と熟練した技(わざ)で、今日まで受け継がれているモノが伝統ブランドです。
弘法大師が遣唐使として中国から持ち帰り、広めたと云われる紀州備長炭や、室町時代から続く虎屋の羊羹、ヨーロッパ最初の磁器であるマイセンに影響を与えた有田焼などです。
外国人が日本をイメージしたときに、よく出てくるゲイシャや舞妓も和服と行儀作法、接客技能に優れた伝統的なブランドになると思います。
二番目は「コーポレート・ブランド(ショップ・ブランド)」です。
お客様からの信頼が確立されているメーカーやショップもブランドです。メーカーやお店が長い時間を重ねて築き上げてきた商品や、サービスの品質などに対する信頼感を顧客が感じ、広く一般的に認知された時に生まれる。
商品やサービスを買うときにメーカーや、お店を特定して指名買いする場合です。車ならトヨタ、自転車ならブリジストン、化粧品なら資生堂などと云った場合です。お買い物をするなら銀座和光や高島屋とか、その地域にある大手百貨店などを、云う場合にもこれにあたると思います。外国でもコンタクトレンズなら世界的な光学機器メーカーであるボシュロムとか、お買い物ならニューヨークのティファニーなどもこれにあたります。
三番目は「プロダクツ・ブランド」です。
お客様がメーカーよりも、個々の商品やサービスを特定して指名買いする場合です。CDならウォークマン、ラーメンならカップヌードル、ビールならスーパー・ドライなどと云う場合です。旅行ならジャル・パックとか、産地直送便ならクール宅急便などのサービスもこれにあたると思います。
四番目はデザイナーズ・ブランドです。
ファション業界に多くあり、類い希なるセンスの良い人がデザインしたモノのブランド。
馬具職人からバックなどのファション性の、高い皮革製品を造るようになったエルメスなどの、伝統工芸から生まれたブランドもこれに含まれると考えます。
ロエベのバック、ジパンシーがデザインしたドレス、ローレックスの腕時計等もおなじです。建築デザイナーでは、古くは帝国ホテルを設計したフランク・ロイド・ライトや現代では東京都庁を設計した丹下健三などのデザインもブランドになると思います。
五番目はリージョナル・ブランドです。
リージョナルとは地理的、機能的、社会的、文化的な特徴を持った地域や地方のことです。
その地域特有の風土を活かした特産物、その土地でしかできない工芸品などがあります。
有田焼、西陣織、津軽塗などもこれにあたるが、長い歴史を考えた場合には伝統的文化の範疇である。この場合は地方の風土に育まれた特産品などを考えた方が自然である。
夕張メロンは夕張という地名がブランドなのです。北海道は昼夜の寒暖の差が大きいので、果実などは糖分を多く蓄えていると言われています。産地直送ビジネスにおいては北海道の何々という、北海道がブランドになっています。お米のコシヒカリも各地で生産されていますが、新潟県魚沼産が最上とされており、お米の高級ブランドとして流通しています。
福井県の越前カニ、三重県の松坂牛、大分県の関アジ・関サバなどもブランド品です。
外国においてはフランスのワインなどにはブルゴーニュの白ワインとか、地名を付けた呼び方をしています。ワイン用の葡萄栽培に適した気候であり、その土地によって味や香りが違っているようです。
また、東京においても銀座の何処でした食事とか、表参道で買った何々、秋葉原で見つけた何々などと云う言い方をします。東京ディズニーリゾートやラスベガスのエンタテイメント・ショーも、その場所に行かなければ楽しむ悦びを得ることはできません。
このように地域、地名、場所もブランドになると思います。
さらにブランド品と呼ばれる為の条件を考えて見ました。
第一は最高品質の商品やサービスを提供すること。商品やサービスを買ったお客様が失望するような欠点がない事です。従って最良の材料で、最新の技術、最高の技能を駆使して、
最大の努力を惜しまずに商品やサービスが提供されていることが条件です。
第二はお客様が常に安心して買うことのできる商品やサービスであり、手にした時に感動が得られること。お客様にとってはそのモノの機能的な価値以上の価値を持っており、ココロを満足させる付加価値がある事も条件です。
お客様の見る悦び、人に見せる悦び、着る悦び、使う悦び、持つ悦び、人に話す悦びなどを得たいと云う欲求を起こさせる事ができ、尚かつ何処へ持って行っても、話をしても恥ずかしく無く、見た目も美しく、使ってみて丈夫で、便利で長持ちし、サービスは行き届いていて、利用し易く、飲食品で有れば美味しく、香りも良く、ココロ満足ができるモノ。
普通の人では買えない、めったに入手できないモノを得た時にもココロが満足します。
第三は第一と第二の条件を一般大衆の中において広く認知されている事。
お客様に提供する商品やサービスがマーケットの中で、ナンバーワン若しくはオンリーワンである社会的評価を受けている事が必要です。
ある特定のモノやサービスを連想したときに、具体的なメーカー名、商品名、ショップ名、地名としてイメージされている事が、ブランド品と呼ばれる絶対条件だと思います。
|