ブランドに学ぶ 儲けを生みだすビジネス・コラム

桃太郎のビジネスコラム 188

☆ ドイツの伝統工芸品☆

2008.02.12号  

 フェィラー社は1928年にエルンスト・フェィラーが、現在のチェコ(当時ドイツ領)で創業し初代社長に就いた。第二次世界大戦の際には、対岸にあるドイツ東部(統合前の西ドイツ)エーガー地方のホーエンベルクに工場を移転した。ワーグナーが建てた祝祭歌劇場のあるバイロイトからも近く、自然と歴史・文化の豊かな地方である。戦後の1948年にはエルンスト・フェイラー&カンパニーを設立。ドイツ・ババリヤ地方の伝統工芸織物に着目していたエルンストは、創意工夫を重ねて「シュニール織」を完成させた。シュニール織は厳選された原綿を熟練した職人が、数十の工程を経て織りあげる。創り出される織布は、厚みのある柔らかい質感と、吸水性が高いことが最大の特徴ある。深く美しい色合いと、織上がった織布は高い文化を感じさせるとともに、色柄のデザインは単なる織物の域を超えた芸術品である。また、使えば使うほど人肌に馴染み、丈夫で長持ちする品質は高い評価を得ている。シュニールとはフランス語で「いも虫」の意味で、シュニール織の特徴として使われるモール糸と、感触が似ていることから、シュニール織と呼ばれるようになったと云われる。シュニール織に使われるのは綿が100%の糸である。綿の品質は天候に左右されるため、フェィラー社では原産地を特定せず、世界中の原産地で、その年最も天候に恵まれた産地の綿を厳選する。染色の美しさはヨーロッパの豊かな水によってもたらされ、保有する原糸は130色にものぼり、一枚の柄には最大18色の糸を使用することができるという。現在は、ハンカチやタオル、インテリアクロスをはじめ、エプロン、バッグ、ポーチ、メガネケース、財布などの小物まで、幅広い商品を展開しており、シュニール織を代表する世界のブランドとして確固たる地位を築いている。

 山川和子は1942年に東京で生まれた。17歳から3年間モスクワに滞在。東京オリンピックでロシア語の通訳をした後、パリの高級免税店リッツでビジネスを学んだ。帰国後の1970年にリッツ経営者一族であるアーロン・メロン(その後、山川阿倫となる)と結婚し、モンリーブ社を設立した。二人は今からおよそ40年前、ベルギーを旅行中に通り掛かった店の、ショーウィンドウにあった一枚の織物が目に焼き付いた。これがモンリーブ社とドイツ・フェィラー社のシュニール織との運命の出会いであり、山川夫妻の人生を変えた一瞬だった。当時ドイツの伝統工芸品であるシュニール織は、一日にわずか3メートルしか織れないという、宝石のように高価なものだった。しかし、夫妻は品質の確かさと美しさこそ、日本人の美的感覚や芸術的感覚に合致する商品であると直感した。フェイラー社の総輸入元になるとともに、長年に亘り開発と研究を重ねた後、モンリーブ社が企画・創作したデザインを、フェィラー社の工場で製造し、それを輸入するビジネス・モデルを確立した。ドイツの隠れた逸品であったフェィラー社のシュニール織は、日本で暮らしの中の芸術品として育ち、世界のブランドとして開花した。

 住友商事はかねてより、消費者直結型事業を展開している。食品スーパーのサミット、ドラッグストアのトモズやアメリカン・ファーマシー、カタログ通販の住商オットー、テレビ・ショッピングの住商ホームショッピング、カジュアル衣料のエディー・バウアーなどを手がけてきた。このような衣・食・住・遊・学などの分野において、優れた商品力・サービス力・ブランド力で、消費者に付加価値の高いライフスタイルを提案していく方針を立てている。この方針に沿ったのが、米国のバッグ・ブランドであるコーチ社(既号118.快走する四輪馬車)との合弁事業である。現在は全国に百数十店舗の快進撃をしている。コーチに続く新たなブランドの柱としてフェィラー社の、高い商品力やブランド力、消費者認知度に着目し、2004年10月に総輸入元モンリーブ社の発行済株式の99%を取得。それまでのモンリーブ社は創業経営者の山川阿倫・和子夫妻が100%の株式を保有していた。フェィラーブランドを長期的、且つ安定的に成長させるには、住友商事グループの多岐に渡る消費者直結型事業のノウハウや、広範な海外ネットワークとの相乗効果を期待したものだった。新しい経営陣が山川夫妻の意向に沿った経営方針や、体制となったことを見定めた昨年、名誉会長であった山川和子は退任、夫妻は共に経営の一線から退いた。

 モンリーブから離れた山川和子だが、現在も講演活動などで多忙な日々を送っている。内面に芸術や文化・伝統などの目に見えない力を秘め、多くの人に愛される商品を創りあげ、世界ブランドにまで育て上げた源泉を語る。それは、モノの価値は数値に表せないもの「インタンシブル(intangible)=目に見えない価値観」が大切だと言う。アイデアを駆使した2次加工品の企画・製造や、口コミを活用した宣伝活動の展開、取引先との交渉術から仕事の結果を出す方法など、高い販売実績を挙げ、会社を大きく成長させた秘訣なども講演で語っている。山川夫妻のポリシーを受け継いだ住友商事は、身の回りや住空間を自分の個性や、生き方に合わせて表現したい人達に、フェィラーの商品を通して、独自のライフスタイルを提案している。「真の意味で本物と呼ばれるものは、国境を越えて、時代を超えて愛される」との理念は、消費者とモンリーブが共通の価値観を持つことから生まれると考えている。モンリーブは「暮らしに使うから美しい」との商品哲学のもと、消費者の生活に彩りと文化の薫りを与える商品が創作テーマとなっている。目指すのは一つ一つの商品が消費者に幸せな時間を運び、明日へ踏み出す希望と勇気に変わるような創作活動だ。現在は東京・品川区に本社を置き、253店舗(内、ショップ/コーナー97店舗)を展開している。


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