ポッカコーポレーションは「ポッカレモン」や「ポッカコーヒー」などの商品名で、一般の消費者にも馴染みの深い会社である。創業者の谷田利景はニッカウヰスキーが運営する「ニッカバー」に勤めていた。当時は生レモンが輸入解禁前だったこともあり貴重な物だった。カクテルに使うには高価で、ウイスキーよりカクテル・メニューの方が高くなることに不満を持っていた。谷田は自身でカクテル用に合成レモンを開発し、自分の店で使ってみたところ大評判となった。57年に会社名を勤めていたニッカバーから借用して「ニッカレモン」として創業。合成レモンを「レモン飲料」として、瓶詰めにして売り出した。
この頃、政治的には55年体制が構築され、保守政権が安定するようになり、外交では国際連合の非常任理事国に選任され、造船業界では実績世界一となった。神武景気のピークは過ぎていたが、ナベ底景気と云われる短期間の経済調整を挟んで、岩戸景気へとつながり、その後は60年代の消費ブーム・レジャーブームへと国内経済は拡大していた時期だった。一般消費者においても、経済的ゆとりが徐々にでてきた時期で、欧米の消費スタイルが次第に浸透していくようになった。
ニッカレモンの顧客はニッカウヰスキーの、特約店であるニッカバーが中心であったが、ニッカウヰスキーとの資本関係はなかった。カクテル・ブームに乗って合成レモンは大ヒットとなり、ニッカバー以外からの注文も殺到した。さらに、消費者からはニッカウヰスキーの関連会社と誤解される事態も発生。そこで、ニッカレモンのイメージを残しつつ、社名を変更することにした。当時は庶民の間にもゴルフを楽しむ人達が増え、ブームに成りつつあった。ゴルフ発祥の地イギリスでの正装「ニッカーボッカー」から「ボッカ」を借用し、濁音よりも親しみやすい半濁音の「ポッカ」を使うことにした。ニッカに似た言葉でもあり、当時のニッカウヰスキーでは、特約店への広報誌が「ニッカボッカ」であったことから、恩義あるニッカウヰスキーへの、思い入れもあったことは想像に難くない。
66年に社名は「ポッカレモン」となり、商品であるニッカレモンも「ポッカレモン」に変更された。82年には国際企業への飛躍を目指し、当時としてはあまりなかった「・・コーポレーション」という名称を社名に取り入れた。 ポッカコーポレーションの主力事業であるポッカレモンも、消費者から批判を受けたことがあった。67年に原材料の不当表示「ポッカレモン事件」である。雑誌「暮らしの手帖」が、レモン果汁が含まれているような宣伝をしながら、100%化学合成品であるとして、スクープ記事にした。これが契機となりポッカレモンが、一挙に売れなくなってしまった。この事件によって、同社を始めとする飲料メーカーの多くは、果汁をアピールする商品を販売するようになった。
創業者の谷田利景は開通したばかりの、名神高速道路を走行中にアイデアがひらめいた。
「車の中でも手軽に飲めるコーヒーがあれば・・」。72年に缶入りコーヒー飲料「ポッカコーヒー」の開発に成功。本格タイプの缶コーヒーの販売を開始すると共に、厳選された原材料と、それを活かす様々な技術も開発。入れたての味・香りを実現する「脱酸素製法」や、コーヒー豆をムラ無く焙煎する「セラミック遠赤外線焙煎」等は特許を取得。入れ始めの雑味のない抽出液だけを使用する「ファーストドリップ製法」など、製造技術の研究開発も進化を続けている。「ポッカコーヒーオリジナル」は発売35年を超える現在でも、人気は衰えることなくロングセラー商品となっている。73年には冷温兼用の自動販売機を、三共電器(現サンデン)と共同開発に成功。連続加温販売可能な缶コーヒー製造技術の開発に世界で初めて成功した。その後も缶コーヒーと同様に、加温販売可能な缶スープの開発に世界で初めて成功し、会社は自動販売機事業を柱として発展するようになる。スタイルを気にする若い女性達から、「低カロリーでヘルシーな軽食」「手軽に空腹を満たせるもの」とのニーズから、カップ入りスープが大人気になっている。最近では男女合わせて約1900万人いると云われるメタボリック(内蔵脂肪)症候群対策に、購入するケースが急増中。お父さん達にも購買層が広がったことで、季節感を訴える期間限定商品も含め、新商品の発売が相次いでいる。
カップ入りスープは、昨年に電通が調べた「消費者が選んだ2007年の、話題・注目商品ベスト10」で、8位に入った成長分野である。今年5月に日経PLUS1では「カップ入りスープ試食調査」を実施。今年1月から販売された26商品から、10品を選んで調査した。
多様な商品がひしめく中、事前に消費者が何を見て、商品を選んでいるのかを調べた。選択理由の上位は「具材の目新しさ」「小腹が満たせそう」「具材やネーミングがヘルシー」となった。さらに、食べてみたい商品の上位順は「こんがりパンの入った春野菜のポタージュ」「鶏飯風スープごはん」「CUPSTEW〈えだまめシチュー〉」であった。
実際の試食テストの1位は、ポッカコーポレーションが販売する「じっくりコトコト煮込んだスープ こんがりパンの入った春野菜のポタージュ」となった。同社が販売する「じっくりコトコト煮込んだ」シリーズの一つで、大きいクルトンのようなパンが入り、アスパラの緑など彩りも鮮やかなことも評価された。試食した人の声は「ポタージュとパンの組み合わせが良く、ボリュームもあり美味しい」「あっさりしているが、パンが入っているので、お腹にどっしりと来る」「野菜の風味がヘルシー感を誘う。口当たりもまろやかで美味しい」「パンと野菜入りなので朝食にいい」と、食べ応えとスープ風味が評価された。2位はエースコックの「はるさめヌードル シーフード」、3位がハウス食品の「〈えだまめシチュー〉」となった。
因みに売上高ランキングでは、1位が味の素の「クノール スープパスタ〈たらこクリーム〉」、2位が、CUPSTEW〈えだまめシチュー〉」、3位もハウス食品の「豆乳を練り込んだしらたき麺のスープ〈ほんのり柚子しょう油味〉」だった。
残念ながら試食1位の「じっくりコトコト煮込んだスープ こんがりパンの入った春野菜のポタージュ」の売上高は4位だった。消費者は商品選択理由にネーミングを挙げており、これをメーカー側が商品名に反映させるため、長いネーミングが目立っている。ポッカコーポレーションは81年に、それまで無かったクルトン入りの製品で、スープ市場に参入した。以後は他社に先駆けて、コーン粒を加えるなどユニークなアイデアと技術で新製品を発表。「つぶコーンスープ」「じっくりコトコト煮込んだスープ」「笑顔で朝食」などのインスタントスープを販売してきた。手軽で本格的な美味しさのポッカスープは、幅広い客層から人気を勝ち得るようになった。
前述の試食調査対象10品目中、5位にランクインした「具(ぐう)とろ〜り たまごスープ」は、最もカロリーが低い64キロカロリー。具材もタマゴ、オクラ、シイタケ、ワカメとヘルシーさが受けている。カップ入りスープとしては低価格帯ゾーンで、160円と手頃な価格も人気を呼び、売上高でも5位にランクされている。
市場全体を見ると、具材の多様化が一段と進み、パスタや春雨に続き、おこげ入りまで登場し、スープと呼んで良いか迷うような商品も増えてきた。「じっくりコトコト煮込んだスープ こんがりパンの入った春野菜のポタージュ」のように、食べ応えを売り物にする一食完結型。「具(ぐう)とろ〜り たまごスープ」のように、主食の添え物として食べる文字通りのスープ型に分かれている。空腹の度合いによって、食べ分けが必要のようだ。
味の素の推計によると、「低カロリーでヘルシーな、軽い食事になる容器入りのスープ」の市場規模は、07年度で約323億円。03年度の1.5倍の成長分野。「衣服のように季節性も大きな要件」となっており、ヘルシー感をだす具材の開発も、各メーカーで競っている。
ポッカコーポレーションは05年に、MBOの一環としてアドバンテッジパートナーズの、関連会社であるアドバンテッジホールディングスの、完全子会社となって上場を廃止した。
現在は連結売上高約1000億円の、日本を代表する飲料メーカーに成長している。
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