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桃太郎のビジネスコラム 325

☆ 愛称はオペラパレス☆

2010.10.13号  

 新国立劇場は東京都渋谷区にある歌劇場・劇場である。1997年10月10日に団伊玖磨作曲、星出豊指揮のオペラ「建:TAKERU」で、今上天皇・皇后や当時の内閣総理大臣橋本龍太郎らの臨席を仰ぎ柿落としが行われた。運営は財団法人・新国立劇場運営財団。オペラ劇場、中劇場、小劇場が設けられ、オペラ、バレエ、現代舞踊、演劇の自主公演が行われている。付帯施設として情報センター、リハーサル室、研修室なども併設されている。メインのオペラ劇場は愛称を公募し、2007年3月にオペラパレスと決められた。座席数は1814席で、1階から4階の四層に客席を配置。主にオペラやバレエなどの公演に利用され、100人の奏者が入るオーケストラピットが常設されており、公演内容に応じて深さが調整される。演奏は東京フィルハーモニー管弦楽団と東京交響楽団が交代で担当。過去にはNHK交響楽団や新星日本交響楽団、東京都交響楽団が演奏したこともある。合唱団は新国立劇場合唱団が専属となっている。初代芸術監督には畑中良輔が就任し、その後は五十嵐喜芳、トーマス・ノヴォラツスキー、若杉弘が就任し、今年の9月からは尾高忠明が就任している。

 新国立劇場オペラ2010/2011シーズンの、オープニング作品はR・シュトラウス作曲のオペラ「アラベッラ」で、10月2日の土曜日に初日を迎えた。今シーズンより就任した尾高忠明芸術監督が、私有人第1作にと切望した作品である。最も親しみやすい作品で、ウィーンでは誰もが笑みを浮かべる作品だという。この作品は「ばらの騎士」「エレクトラ」「ナクソス島のアリアドネ」などの傑作を生み出したR・シュトラウスと、台本作家のホーフマンスタールの名コンビが最後に手掛けた作品として有名である。19世紀後半のウィーンを舞台に、性格の全く異なる美人姉妹のアラベッラとズデンカの恋模様を、R・シュトラウスの甘美で洗練された音楽がきめ細やかに描いていく。このオペラは主役から脇役に至るまで、登場人物たちの心情描写が繊細に描かれている。それだけに全ての登場人物には高い歌唱力と演技力が求められている。今回の舞台では主役である美人姉妹のアラベッラ役ミヒャエラ・カウネと、ズデンカ役アグネーテ=ムンク・ラスムッセンほかの、国内外の実力派歌手達が美しい舞台空間という最上のステージを得て、水を得た魚のように生き生きと歌い上げ、そして演じていく。

 デザイナーの森英恵(既号232.映画の衣裳スタッフ)は、2004年にパリ・オートクチュールの一線から退いたが、84歳になる現在も創作意欲は衰えていない。「アラベッラ」の衣裳担当に就任し、「日本の劇場で仕事が出来ることが、嬉しくてたまらない」と気力を漲らせている。登場人物の衣裳を創るために描いたデザイン画は80枚にもなったという。生地も全て自分で選び、装飾に使う羽根は自らパリの下町の材料屋まで買いに行ったという。劇中では没落しているとは云え欧州貴族の設定である。伝統的なエレガンスを漂わせて、且つ女性らしく魅せるデザインは、当時の時代の雰囲気を残しながら、現代性もあるように心を砕いたという。軍人とホテルマンの衣裳イメージにも苦労し、当時の軍服を様々な資料で調べ、パリの高級ホテルであるプラザ・アテネに宿泊してまで、ベルマンやドアボーイの姿を徹底的に観察したという。森はパリのオペラ座で仕事をしたとき、衣裳は勿論のことネックレスでも刀でも、求めに応じてたちどころに造る裏方の底力に感動したことがあった。「オペラ座の裏にこそ、本当のオートクチュールがあると思った」と振り返っている。仮縫いの段階では主役のミヒャエラ・カウネから、衣裳の寸法修正依頼が発生。そのような求めは稽古が進につれて増え、演出からも衣裳の色や袖の形まで細かい要求が相次ぐ。森は「舞台芸術というものは、そうやって創り上げて行くもの。アトリエの全員が総掛かりで最後まで手を緩めずに仕上げていくもの」と語る。そして「オートクチュールで長く仕事をしてきたが、自分を鍛えて呉れたのは、映画や舞台の仕事だった」という。オートクチュールが曲がり角に来ている現在、手仕事の粋を集めて作る服が生き残るのは、舞台衣裳の世界ではないだろうか。

 今回のアラベッラ公演で際立っていたのが、舞台造りの圧倒的美しさにある。演出・美術・照明を担当したフィリップ・アルローは「光の魔術師」とまで呼ばれ、100種類以上のブルーに照らされた舞台空間を演出。紗幕を用いて舞台の陰影、登場人物の心情の陰影を巧みに表現する手法は、光の魔術師と云われる真骨頂を魅せた。そして今回の舞台衣裳を担当した森英恵は、パリのショーで使った装飾品も多数用い、帽子や羽根飾りにレースなどのディテールにまで拘りを尽くし、観客が思わず息を呑むほどの華麗さを表現している。この美しさを極めた舞台空間と衣裳は、第一幕の幕が開いた瞬間から、観客を釘付けにしてしまう。観客からは「歌唱力と表現力が素晴らしく、舞台の背景も絵画的な色彩が印象的で、演出とともにスケールの大きさを感じる。見終わった後の清々しさは最高の気分だった」と、賞賛の声が上がっている。公演初日ということで、小泉純一郎元総理大臣や河野洋平元衆議院議長、それに8ヶ国の駐日各国大使や文化担当官なども鑑賞し、それぞれが「公演の質の高さに感動した」とのコメントを出していた。


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