74年 5月15日江東区豊洲に新しく出来たお店が開店準備をしている 午前 6時45分頃
「入っていいですか?」中年の客が入ってきた。店長は「どうぞ」と招き入れた。お客は800円のサングラスを買っていった。セブン・イレブン 1号店が最初の客に初めて売った
商品だった。それから 30年以上が過ぎ、一昨年 8月には1万店を突破し、04年2月期末で1万303店となった。今日現在正式発表されていないが05年2月期ではチェーン全店売上高2兆4800億円、営業利益 1775億円と 25期連続増収増益を達成する見込みである。
企業30年説というのがある。起業して30年も経つと社会構造の変化で、同じ業態では変化についていけず、企業は衰退するというのである。セブン・イレブンに関しては衰退どころか、連戦連勝で快進撃の勢いは衰えそうもない。
日経MJの03年度のコンビニエンス・ストア調査・第25回によると、セブン・イレブンの平均日販は約65万円で、二位ローソンを17万円上回っている。売上高営業利益率も37.5%と二位ファミリーマート、三位ローソンの17%弱を大きく上回っている。本部の営業利益額も1668億円と二位ローソンの4.4倍になっている。
セブン・イレブン・ジャパンの一人勝ちは揺るがず、他店は脱セブン・イレブンのビジネス・モデルを模索し始めた。ローソンは小包で提携した郵政公社と郵便局のコンビニ併設の検討や店内調理の麺類を提供する実験店を札幌や横浜で始めた。店内調理は名古屋を地盤とするココストアーが100店舗以上手がけており、ミニストップも実験を進めている。
ファミリーマートは港区に焼きたてパンを提供するカフェ併設店を開いた。スリーエフも一昨年暮れに相模原市の既存店を改装し、生鮮品が商品の5割以上占める「フレッシュ99」の実験店を開いた。中国地区が地盤のポプラは売場面積が従来の2倍以上の250から300平米の「スーパーコンビニ」に乗り出した。取扱商品も5000点と一般コンビニの2倍はある。
福岡県の粕屋町ではお代わり自由のドリンクバーの設置、大阪市では一般書籍を扱うなど、商品効率よりも集客力を優先した業態を目指している。
一方迎え撃つコンビニエンス・ストア業態の先駆者であるセブン・イレブンは、店舗運営の仕組みや物流の仕組み、公共料金の支払いや宅配便の取り次ぎはもとより、IYバンクの支払端末の設置へと業態がどんどん進化している。今や本部では儲かるビジネスの仕組みをフランチャイジーに提供していると考えた方がわかりやすい。
高度経済成長時代が終わり、必要不可欠のモノは誰でもが持てるようになった満腹社会において、コンビニエンス・ストアの業態は、瞬く間に消費者に受け入れられた。セブン・イレブンが日本最大の小売業に成長し、流通業界のブランドになれたのには独自の経営システムによるところが大きい。トヨタ自動車が世界のトヨタに成長出来た経営システムのひとつに製造現場における「カンバン方式」がある。必要な調達品のジャスト・イン・タイムである。コンビニエンス・ストアにおいての最大のサービスは消費者が、必要なモノを、必要な時に、必要なだけ、すぐ近くで買うことが出来る利便性である。もちろん商品の品質が良いことは当然である。セブン・イレブンには「仮説、検証、単品管理」という独自の経営システムがあり、セブン・イレブンの強さの源泉である。
鈴木現会長が 73年アメリカに乗り込み、サウスランド社と業務提携をした。業務提携と
云えば聞こえは良いが、実体はビジネスの手法を教わってきたと云うのが本当だろう。
18年後の 91年に米サウスランド社の経営が行き詰まり、後身の 7-Eleven.Inc社はセブン・イレブン・ジャパンと親会社のイトーヨーカ堂の子会社となっている。経営システムの逆移植である。コンビニエンス業界の経営手法の多くはセブン・イレブンから学んでいるといっても過言ではないと思われる。 セブン・イレブンにおけるマーチャンダイジング(商品政策)の基本に有るのが「データを読む」ことである。大手スーパーやコンビニ業界でPOS(販売時点情報管理)システムの導入が進んでいることは良く知られている。セブン・イレブンはPOS導入の先駆者であり、そこから得られるデータの分析力は群を抜いている。消費者の買った商品が店頭のレジを通った瞬間にさまざまなデータがコンピュータにインプットされる。商品、価格、個数、時間、といった当たり前の情報だけでなく、消費者の性別、概略の年齢、天候などまでインプットされる。これらの情報は 97年に導入された通信衛星による総合情報システムによって瞬時に共有される。この情報が「仮説、検証、単品管理」をおこなう為の基礎データとなっている。本部では商品開発や売れ筋商品、死に筋商品の見極め、フランチャイジー指導の基礎データ等さまざまな活用がなされている。
フランチャイジーにおいても店補のある地域のお祭りや運動会といったイベント行事などの消費者行動を加味して本部への発注業務や商品のレイアウトに活かされている。
満腹社会の小売業では経営学ではなく心理学だとよく云われる。スーパーでは「レジ前のガム」という言葉があるそうだ。ガムとは財布への負担が軽く、日持ちが良く、持っていても邪魔にならないモノ。レジに支払で並ぶ時に衝動買いを誘い易いモノの例えである。
主婦の夕方の買い物は 7割以上の人がスーパーへ行ってからの衝動買いだと云われる。スーパーへ行って目的のモノだけを買って帰る人は殆どいないそうだ。セブン・イレブンでは週刊誌などの雑誌類の販売量は日本一である。雑誌類は店外の道路からも見える場所に置いて集客をはかっている。コンビニでは弁当やおにぎりの売上が一番多く、弁当の売場は殆どのお店で奥の方にある。弁当を買いに来たお客を弁当売場に誘導するまでに、他の商品を衝動買いさせるようなレイアウトになっている。 セブン・イレブンでは弁当やおにぎりなどの販売については「そんなモノは家で作るモノで売れる訳がない」と反対意見が多かったという。それを各家庭の生活パターン、勤労者や独身者の行動パターンから「仮説、検証、単品管理」を繰り返し、コンビニ最大の商品に育て上げた。弁当類は比較的単価も高く、オリジナル商品なので利幅も大きい。
セブン・イレブンでは「顧客のために」という言葉は禁じているという。顧客を過去からの経験則に従った固定概念で考えてしまうからだ。消費不況の昨今の安売り志向にみられるように、「価格が高いとお客さまのためにならない」と考え、価格を下げて安売り競争に走ってしまう。これを「お客様の立場で」と考えると見方が変わってくる。高めの価格帯の弁当にしても違いは数百円である。従来の考え方では売れなかった場合には、すぐに価格を下げてしまっていた。これをお客様の立場から考えると「高いお金を払ってまで期待していた品質(=美味しさ)に及ばなかった」のだから、支払って頂く「高いお金にみあった美味しさを追求する」と考えたらどうだろう。価格と価値の違いを訴えた。
何年か前にアイスクリームやケーキの売上が減少した事があった。調査をすると女子高校生達が携帯電話にお小遣いが消え、アイスクリームやケーキに消費するお金が無くなっていたという。それまではアイスクリームなどは子供が食べるモノという固定概念があったため売値を抑えていた。セブン・イレブンでは一個 400円近くもする高級アイスクリームを販売している。昨年夏は猛暑もあり冷菓の売上が伸びたが、売れ筋トップ10のうち8品目が高級志向のオリジナル商品だった。価格が多少高くても顧客が納得すれば売れるということだ。もちろん顧客ターゲットは女子高校生ではなく主婦やOL達である。
顧客の心理をつかむことは大変難しい事ですが、鈴木会長は次のように言っています。
「難しいと思うのは売り手の勝手な思いこみにしか過ぎない。世の中に変化をもたらすのは誰なのか?特定の誰かではありません。あなた自身が時代を変えていく一人であることを忘れてはいけません。あなたも我が儘で矛盾した顧客としての心理を持っている。ところが売り手側に回るとそれを忘れてしまう。顧客の立場で考えることは、自分の中の顧客の心理を呼び起こす事です。」
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