ソニーが1月に05年3月期の連結業績予想を下方修正すると発表した。連結売上高が計画より2000億円マイナスの7兆1500億円、営業利益は500億円マイナスの1100億円である。
ソニーが得意としてきた音響、映像機器などのエレクトロ部門の不振が大きい。
昨年夏のアテネ五輪商戦で他社が薄型テレビなどのデジタル家電を積極投入したのに対し、ソニーは年末商戦に賭けていたが、デジタル家電に値崩れがおきてしまい致命的な判断ミスとなった。価格下落はDVDレコーダーで前年比約40%、薄型テレビで20%から30%となってしまった。
創業以来日本初、世界初のAV製品を次々に生みだし、斬新なデザインやウォークマンやハンディカムのようにAVを楽しむライフ・スタイルを変えた製品で、数々のソニー神話を打ち立ててきた。神話により多くのソニー・ファンを得ると共に、比較的高価格を維持してきたが、企業規模が肥大化したため、売上高が数千億円程度のヒット商品の利益では業績に大きい変化をもたらすには至らなくなってしまった。
03年4月に業績低迷で株価が急落したソニー・ショックを受け、コスト競争力を高める構造改革を進めてきたが、今期の営業利益率は1.5%程度の見通しで、06年度の目標である10%には遠く及ばない状況である。現経営陣はソニー・ブランドの崩壊が目前に迫ってきており危機感を抱かずにはいられない状況となった。
46年に井深 大氏と盛田昭夫氏が東京通信工業を設立し、58年にソニーと社名変更した。音のSoundやSonicの語源となったSonusと、小さい坊やと言う意味のSonnyを掛け合わせて造ったのがSonyだ。創業者の盛田氏は四文字であること、全世界の人々が視覚的に一目で判ること、何処の国でも同じ発音が出来ること、そして造語で有ることに拘ったと言われる。60年ソニー・コーポレーション・オブ・アメリカを設立し、陣頭指揮で乗り込んだ盛田氏は精力的に販売店網つくりに奔走し、時には各界の人達を自宅に招いてパーティを催しソニー・ブランドの浸透をはかっていった。
当時、世界のマーケットではメイド・イン・ジャパンという言葉から、安物・安価というイメージがあり、盛田氏はこの概念を取り除いた功労者である。とくにソニー製品を高価・高級の日本発世界ブランドにし、その後の日本製ブランドに道筋をつけた。
国内では井深氏を始めとする技術陣が、日本初のテープレコーダー、日本初のトランジスタ・ラジオ、世界初のトランジスタ・テレビ、世界初のトランジスタ小型VTRなどを次々と開発し、ハードの分野でソニー・ブランドを世界的に確立していった。
二人の創業者がソニーとしてのオリジナリティを確立し、企業としてのプラットフォームを構築した。電気メーカーとしては異色の芸大出身の大賀氏が社長の時には、CBSレコード、コロンビア・ピクチャーズ・エンタテイメントを買収してソフトの分野にも進出した。今ではソニーのビジネス戦略に無くてはならない分野である。
95年社長に就任した出井伸之現会長はインターネットの普及とともに、ハードやソフトのネットワーク化を掲げた戦略を打ち出し、真のグローバル企業に成長させた。
盛田氏は後年「SONYというロゴがあるから、今日のソニー・ブランドがある」と自らの哲学を語っていたと言う。 04年10月に第六回日経フォーラム「世界経営者会議」で安藤国威現社長は講演のなかでブランドについて語っている。「ブランドも時代とともに大きな淘汰を余儀なくされている。ブランドとはどのような意味を持つモノなのか。ブランドの再定義やブランドの戦略的活用が、ビジネス戦略上たいへん大きな意味を持っている」「ブランドとは企業が持っている無形資産としては最大のモノである」「ブランドを構成している要素は大きく分けて四つの階層がある。健全経営から始まって信頼性や働きがいなどのベースバリュー、次にソニーなら高品質、最先端の技術、世界で初めての、といった枕詞がつくようなブランドのアイディンティティ。次に自由闊達、楽しさ、ユニークさ、オリジナリティなどのブランドのパーソナリティ。最終的にビジネス・コア部分である企業目的とか夢・創・愉などに置き換えたビジョンへと繋がっていく」などと基調講演で語っていた。
ソニーはSONYというコーポレート・ブランドと強力なプロダクツ・ブランドの相乗効果で業績を拡大してきた。トリニトロン、ウォークマン、ハンディカム、プレイステーション、VAIO、WEGAといった商品ブランドが、その時代時代の成長を牽引してきた。今ではソニー・ブランドは日本国内よりも、アメリカにおいての方がはるかにプレミアム・ブランドだと言われている。日本はハードがメインだが、アメリカではソフト、つまり情報のコンテンツが非常に大きなウエィトを占める。ハードとソフトの相乗効果でソニーのブランドが輝き続けて欲しいが、ここに来て陰りが見え始めた。 3月7日ソニーは大幅な経営刷新を正式発表した。出井伸之会長兼グループ最高経営責任者は「社長に就任して10年が経ち、最良のタイミングだと判断した」と述べ、最高顧問に就任する事を発表した。同時に安藤国威社長も退任し顧問に就任する。
後任には同社にとって初めての外国人トップとなるハワード・ストリンガー副会長と中鉢良治副社長が就任する。出井氏は95年に14人抜きで社長に就任。米誌ビジネス・ウィークで世界のベスト経営者に挙げられるほどのソニーの顔であった。就任当時約3.5兆円のビジネス・サイズが現在では7.5兆円の規模になっている。ソニーを世界のビック・ビジネスに押し上げた功労者でもある。
ソニーは近年のデジタル景気に乗り遅れて、業績の低迷が顕著になっている。
最近5年間の要約財務データを見ると、営業利益率が 00年の3.3%強からじりじりと下がり、03年は2.5%弱、04年度は前述のように1.5%程度の見通しである。総資産を見ると
00年 6兆8072億円から毎年増え続け03年は8兆3705億円となっている。これは在庫が増えており、在庫は原価で計上するので利益が出ない体質と見て取れる。
上場企業の中にはこの程度の営業利益率の企業は、ほかにも多く見掛けるが、ソニーの場合は過去の収益率と比較した場合、ブランド・イメージが許さない数字となってしまう。
ソニーは03年の商法改正に合わせて、「委員会等設置会社」へと移行、監査役の代わりに「指名」「報酬」「監査」の委員会を置き、次期社長などの取締役は指名委員会が選考する仕組みになっている。各委員会にはUFJ総研の中谷巌氏、富士ゼロックスの小林陽太郎氏、オリックスの宮内義彦氏、ニッサンのカルロス・ゴーン氏など8名の社外取締役が
メンバーになっている。
一部の報道によると、取締役会で出井会長が「07年3月期に営業利益率を10%にしたい」と報告した。ゴーン氏は「それはコミットメント(公約)か?」と質したという。日本社会にとって目標とは努力目標で有るが、ゴーン流では期限付きの必達目標である。「07年3月期までに達成出来なければ責任をとって辞任するか?」と同意語である。出井会長が辞任を決意したきっかけであるとの観測がでているようだ。
ストリンガー次期社長は「企業がさらに成長するためには変化が必要だ。ソニーも変わらなければならない」と抱負を述べた。ソニーは外国資本も多く入っており、売上高の7割は海外である。
米テレビ局のCBS社長を経て米国ソニー社長に就任し、映画会社MGM買収を成功させたストリンガー氏が就任するのは自然である。国内外にソニーが真のグローバル企業であることをアピールできた効果も大きい。ゴーン社長がニッサンを再生したように、ストリンガー氏がソニー・ブランドの陰りを払拭することを期待したい。
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