|
国土交通省は3月23日に2005年公示地価を発表した。1月1日現在の全国平均は住宅地マイナス4.6％、商業地マイナス5.6％と、ともに14年連続のマイナスだが下落率は縮小した。地域別に見ていくと大都市圏には底入れ感がでてきており、千代田、中央、港、新宿、渋谷の東京都心五区での、全用途平均が0.8％の上昇で、15年ぶりにプラスに転じた。しかし、地域による地価の格差拡大は全国的に二極化が顕著になってきた。住宅地でみると上昇10地点のうち、オシャレなイメージがある港区南青山が6.8％の上昇でトップ。千葉県浦安市の美浜地区や舞浜、弁天地区などの4地点が5.4〜6.6％の上昇となっている。浦安市近郊は東京ディズニーリゾートの集客力に伴い周辺インフラの整備が進んでいることに加え、教育行政への高評価もある。埋め立て地の環境整備などの充実が人気を呼び、用地の供給不足も地価上昇に繋がったようだ。著名人達が数多く住む都内屈指の高級住宅地である大田区田園調布地区でも横ばい、もしくは上昇に転じており、千代田区でも番町や麹町などで上昇が見られ、地域・地名にブランド力のある地点で上昇が続出している。目黒区や世田谷区でも同様な傾向が見られ、23区全域にこの傾向は徐々に波及しつつあるようだ。下落10地点では札幌市南区簾舞の22.2％がワースト。大阪府泉南群などの8地点が19.5〜21.0％の下落率になっている。
商業地の上昇は名古屋駅周辺の中村区や栄区が上位10地点の8地点を占め、9.9〜14.8％の上昇率である。愛知万博の開催や中部国際空港の開港、07年春に完成するトヨタ自動車などが建設する高層ビル等の相乗効果がおきている。トヨタ自動車ではビル完成後に、東京にある海外営業部門が移転する計画もあるようで、デベロッパーによる居住用マンション建設用地の争奪戦も地価上昇に拍車をかけているようだ。鉄道沿線では昨年2月に開業したファション・エキスプレスと呼ばれる横浜元町・中華街駅から横浜駅を経由して東京渋谷に乗り入れる「みなとみらい線」、今年8月に開業する東京秋葉原から茨城県つくば市を結ぶ「つくばエキスプレス」の沿線や新駅周辺では商業施設開発やマンション開発による地価上昇がおきている。工業用地の地価は新聞掲載されていないが、近隣の住宅地の地価を見ると、東京大田区や東大阪市の工業用地近辺は下落が続いている。大手企業が中国を始めとする東南アジア地域に工場を移転した影響による町工場の廃業、減少が地価下落につながっている。
首都圏の地価はバブル期までは、千代田、中央、港の都心三区を中心に10�匏�、20�匏�、30�匏�と順に時計回りに郊外へ向かって上昇していた。近年の地価上昇はスポット的に地価上昇が発生しており、首都圏でも地価の二極化現象が鮮明になってきている。東京都内の商業地を見ると表参道周辺の高騰が目立っており、渋谷区神宮前5-2-2地点では平米548万円と前年比8.5％の上昇である。このすぐ近くに昨年4月に8階建てのファション・ビルが完成した。とは言ってもオーナーは日本最大級の公益法人である「社団法人 日本看護協会」の本部ビルだ。旧本部ビルが老朽化したため、黒川紀章建築都市設計事務所の施工監理で約50億円をかけて再建築したという。ファション・ビルと見間違うのも当然で、日本看護協会の「平成15年事業計画」を見ると、「テナントとの賃貸借契約締結」とあり、イギリスの有名ブランドであるバーバリーなどのブランド・ショップや関連団体の日本訪問看護振興財団、日本看護協会出版会などに賃貸している。バーバリーは1階2階を賃借しており、一説には坪20万円/月もの破格の高額賃料だという。日本看護協会と云えば、国会質疑で迷答弁を繰り返し、何かと話題になっている参議院議員 南野智恵子法務大臣の出身母体である。昨年10月の国会における「政治と金に関する問題」では、その政治団体である日本看護連盟から年間2億円もの政治資金を受けていたらしい事を民主党の福山哲郎議員に説明を求められていた。日本看護協会とは「看護師さん達の互助組織」くらいにしか思っていなかったが、参議院議員枠を確保する政治力といい、ファション・ビルを建設してブランド・ショップに賃貸することで、更に資産価値を上げるビジネス感覚には「恐れ入ります」と言うのが実感である。
海外有名ブランド店が相次いで出店している表参道にはルイ・ヴィトン、カルバン・クライン、シャネル、プラダ、クリスチャン・ディオール、グッチ、イヴ・サンローランなどのほかにケンゾー、ハナエ・モリ、イッセイ・ミヤケなどの日本発のファション・ブランドも含め数十もの国内外有名ブランド・ショップの路面店が軒を連ねている。公示価格では前述したように表参道に面している、港区北青山や渋谷区神宮前の周辺では10％近い高騰が、昨年今年とつづいている。若者達から「ウラハラ」（裏原宿）と言われる表参道の裏手の地価も上昇している。代官山にあるブティックのように、民家を改装しただけの店舗賃料が、平米3万円/月もするらしい。山手線の原宿駅、地下鉄銀座線、千代田線、半蔵門線の鉄道4線が利用でき、明治通りや青山通りとも交差しており集客インフラも整備されている。数年前より表参道の地名自体がファション・ストリートとしてブランド化されている。中央区銀座の海外ブランド店はフェンディ、グッチなどがある並木通りに多かったが、最近は人通りの多い表通りに大型旗艦店を出店するようになった。中央通りにはシャネル、カルチェ、フェラガモなどの直営店があり、晴海通りにはクリスチャン・ディオール、コーチなどがある。有名ブランドの出店ラッシュの影響もあり「山野楽器銀座ビル」地点の地価も10％の上昇である。ほかにも港区南青山、渋谷区猿楽や代官山などブランド・ショップの出店地域ではオシャレなイメージもあり、商業地だけでなく住宅地も含めた地価上昇が認められる。このようにブランド・ショップの出店が、その周辺地域をブランド化して地価を押し上げている。バブル期の一時的な投機による高騰とは違い、これらの地価はブランド・ショップが持つ高付加価値に裏打ちされた収益力に支えられている。今ではブランド・バリューによる二極化は企業や地価だけでは無く、全ての社会現象に見られるようになってきた。「福沢諭吉はとっても淋しがり屋である。だから仲間達がたくさんいる処に集まる」と云う説には忸怩たるものがあるが、この傾向が今しばらく続くことは容認しなければならないだろう。
|
