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桃太郎のビジネスコラム 49

☆ 元禄から伝わる備長炭☆

2005.05.10号  

 仕事帰りに時たま寄る小料理屋がある。先日も暫くぶりに顔を出してみた。「いらっしゃい。お久しぶりです」まずは小グラスの生ビールと先付けが出てきた。ビールを飲み終える頃合いを見計って、置いてある焼酎のボトルを持ってきた。いつものパターンだ。
「今日はカマスのいいのが入っていますが」と言うので焼いてもらう事にした。
店の主人はガスバーナーで直径が4センチ位で長さが 30センチ位の炭を熾し始めた。本物かと訊ねると「私も料理人の端くれですからね」と返事が来た。火が熾きたところで炭を焼き台に移しカマスを焼き始めた。店の主人とは暫し備長炭談議をすることになった。
最近はウナギ屋さんや焼鳥屋さんの店の入り口に「紀州備長炭使用店」と木の看板に書いているのを見掛ける事がある。そんな看板が掛かっている店で、直径10センチもあるような炭を火箸で縦に割って使っている店があった。私の知識では備長炭の直径は4〜5センチ以下位の太さだ。料理人ではなく、商売人?がやっているお店なのだろう。
備長炭は火力が強く安定した火力が長時間得られ、団扇一本で微妙な火加減もできる。表面はこんがりと焼け、中は程良く火が通り、うまみを逃がさないので焼き物料理には欠かせない燃料となっている。独特な炎とまろやかな温度はタンパク質の分解を防ぎ、遠赤外線効果が食欲増進させるグルタミン酸を増加させると言われている。
店の主人は備長炭談議のなかで、ウナギなどの焼き魚は備長炭、バーベキューにはナラの黒炭が使い易く、茶の湯用ではクヌギの黒炭が味がまろやかで美味しく感じるとの事。


 現在世界のトップレベルにある日本の炭焼き技術は弘法大師(空海)が804年遣唐使と
共に中国に渡り炭焼き技術を持ち帰り、真言宗の布教と共に日本各地に広めたと云われる。
紀州南部は高野山にも近い。江戸時代には紀州藩への製炭奨励策が徳川史に残っている。
備長炭の原木となるウバメガシは関東以南、特に紀州南部中心のやせた土地に自生し、高知や宮崎にもわずかにある。ブナ科の常緑高木で曲がりくねって固いため他の用途にはあまり適さない。20〜40年の成木が木炭の原料には最高と云われている。備長炭は備長窯と呼ばれる天井を粘土で構築した窯で焼くが、窯作りに必要な耐火性の赤土や石も紀州独特のものだと云う。昔は輸送手段が無かったためにウバメガシを伐採してしまうと別な山へ移らなければならない。炭焼き師達は何個もの窯を持ち、原木の再生にあわせて山を移動した。その後土佐や日向にも炭焼き技術が伝わり、土佐備長炭、日向備長炭となった。
木炭は窯で焼く温度によって黒炭と白炭に分かれている。
黒炭は400〜700度で焼かれており、叩くと鈍い土器音がする。火付きが良いが火持ちが短い。クヌギを使った池田炭(大阪・池田市)は室町時代に茶道用として開発された。
一般に使われる燃焼性が良い黒炭は、岩手県のナラ材を使った岩手黒炭が良いとされる。
白炭は1000〜1300度で焼かれ、消火の時に炭床に集めて素灰を掛けるため白っぽくなっている。叩くと金属音がする。火付きは悪いが火持ちが良い。代表的なのが紀州備長炭で最高級とされている。次に土佐備長炭、日向備長炭の順と云われている。
備長炭の呼称は元禄時代(1700年代)に紀州藩田辺で炭問屋を営んでいた備中屋長左右衛門が秋津川村(田辺市秋津川)産の木炭に備中屋の「備」と長左右衛門の「長」から「備長」の屋号を付けて江戸日本橋の問屋に向けて出荷したところ、品質の良さが評判となり江戸一円に広まり、江戸の町では「紀州備長炭」は炭のトップ・ブランドとなった。

 備長炭は燃料としてだけでは無く、生活用品である枕や石鹸、歯ブラシ、靴下などの衣類にも備長炭の効果を謳った商品が数多く出回っている。備長炭が持つ自然パワーには様々な効果があるようだ。その秘密は電子顕微鏡で覗くと無数の穴が開いており、備長炭 1グラムで 300平方メートルもあるそうだ。 穴には濾過効果や吸着効果があり水や空気をきれいにする。穴には微生物が繁殖しやすくそれが不純物を分解する効果もあると云う。
「温熱効果」お風呂に備長炭を入れて沸かすと遠赤外線放射による温熱効果が高まり、良く温まり湯冷めしない。湯のカルキや塩素成分も取り除かれて肌がなめらかになる。
「電磁波遮蔽効果」備長炭は均一に炭化されているので導電性がよく、電磁波の遮蔽効果があると云われる。携帯やパソコンから人体に与える電磁波の影響が研究されている。
「消臭・調湿効果」押入や冷蔵庫に備長炭を入れておくと除湿や消臭、除菌効果がある。備長炭は湿度55%以上で吸湿し、50%以下で放湿する調湿作用がある。室内のダニは湿度が70%以上になると急激に繁殖し、60%以下になるとダニの餌になるカビの発生がおさえられ、ダニが生息できなくなる。乳幼児のいる家庭では大変効果があるという。
「美味しいご飯」米ヌカやカルキ、塩素臭が取れ、ふっくらとしたご飯が炊きあがる。
「アルカリ中和効果」備長炭はPH9のアルカリ性であるため、水道水の入った容器に入れておくと弱アルカリ性となり体に良くカルキ臭も消える。手作りのミネラルウォター。
「マイナスイオン効果」備長炭はマイナスイオンを発生させる。家電製品はプラスイオンを大量に発生させており、備長炭を室内に置くことで室内のイオンのバランスを保つ事ができる。マイナスイオンは副交感神経を刺激し気持ちを穏やかにする作用があり、安眠効果があるといわれる。又、血行も良くなり冷え性にも効果がある。
「ホルムアルデヒトの吸着」新築住宅などで体調を壊すのは、建材や塗料から発生するホルムアルデヒトという化学物質が原因となっている場合が多い。備長炭の吸着作用は有害物質の室内濃度を低下させる効果がある。

 04年10月 に中国政府は備長炭の輸出を停止した。 中国では炭焼きの技術が途絶えてしまったため、日本の燃料卸業者が技術者を派遣して炭焼き技術を指導し、今日の中国産備長炭の隆盛を得た。ウバメガシは中国にも相当数あるらしいが、焼きが甘いので全体の品質は国産よりも落ちるという。しかし、価格が安いのは飲食店にとっては魅力である。
最近では飲食店が使用する備長炭の8割が中国産の備長炭使用だと云われている。
前述の小料理屋のご主人によると国内産の備長炭価格はキロあたり1000円。原木を輸入して国内の窯で焼いたもので 800円。中国産の価格は不揃いのものなら 400円以下で購入できると云う。中国産の輸出停止から半年が経ち一部で品不足が発生しており、庶民が利用する居酒屋さんや焼き鳥屋さんなどは木炭確保と価格高騰に苦労しそうである。
02年の国内における木炭の使用量は18万6000トン。今後は中国以外の外国産と国産木炭で賄えるのは需要の6〜7割と見られている。品不足のため最近市場に出回っているのが、
オガクズを原料にしてチクワのような穴の開いた加工燃料のオガ炭だ。原木も製法も違うオガ炭に「OO備長炭」と商品名がついているらしい。聞く処によると全国燃料協会では「規格は協会内のもので一般には遵守を義務づけるものでは無い」とのこと。林野庁は「製法や特性が似ているから備長炭と名付けているのでしょう」と他人事。公正取引委員会の見解では「備長炭と云う言葉で消費者がどんなイメージを持つか?ウバメガシの木炭というイメージがあるなら、それ以外の木炭で備長炭使用と表示すると、景品表示法違反になる可能性がある」との事。当事者である飲食業界では「備長炭と云えば消費者に高級と感じて貰えるので
曖昧のままにしてきた今後はどこかで線引きが必要だとの見解だ。
消費者が持つ過度の備長炭に対するブランド信仰と業界の利益優先が根底にあるの
だろう。
「紀州備長炭」は紀州の風土と炭焼き師達が300年もかけて育てたブランドである。
紀州南部川村備長炭の製炭技術は昭和49年より、和歌山県の無形文化財に指定されて
いる。




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