ブランドに学ぶ 儲けを生みだすビジネス・コラム

桃太郎のビジネスコラム 50

☆ 老舗メーカーの再起☆

2005.05.17号  

 世間からは2年前まで忘れ去られていた「サッポロビール」が甦った。日本最古のビール会社としての遺伝子が、新しい発想の基に「ドラフトワン」を生み出した。昨年2月から全国販売したドラフトワンは、当初1000万ケースの販売計画を二度に渡って上方修正する大ヒットとなり、12月迄に1816万ケースを売り上げ、1月までの1年間の出荷は2300万ケースを突破した。ビールは通常夏場が最も売れるのだが、去年の12月に月間売上の最高を記録している。04年のサッポロビールの業績はドラフトワン効果で経常利益が前年比2.7倍の180億円と過去最高益を記録した。これを今年は大きく更新する勢いだ。
消費者が望む「安全、安心、健康、自然、環境」を商品のキーワードに4年の歳月と多大な費用を掛けて開発した。発売にあたっては工場の社員までもが販売店の店先で商品PRに努め、全社員が一丸となって「サッポロの再起」に立ち上がった。
現在の消費者は軽い味を求める傾向にあり、03年に男女400人に対するアンケートでは90%の人がスッキリ味を支持している。サッポロの技術陣は発想を180度転換して、渋みや苦みのある麦芽や麦を使わずに、200種類以上の原料を試した結果「エンドウマメのタンパク」を使うことで新しいジャンルを切り開いた。会社の業績は厳しい状況がつづいており、02年には商品化出来るレベルに達していた。しかし、大豆は遺伝子組み替えの危険性やアレルギーのでる人もおり、安全性の確認が出来るまで更なる研究が続けられていた。
ドラフトワンは麦芽を使っていないため、「その他雑酒」に分類される。酒税額がビールの三分の一、発泡酒の半分で、店頭価格もケース買いをすると350ml が1本100円以下だ。
ライトな風味と手頃な価格が家庭の財布を預かる主婦から絶大な支持を得ることになった。


 明治政府は1869年に開拓使を設置し北海道の開拓に乗り出した。1876年に開拓使はドイツでビール造りを修得してきた中川清兵衛を主任技師として醸造所の建設に着手した。
翌年には開拓使のシンボルとして、北極星のラベルをつけた「冷製 札幌ビール」を発売。
1886年北海道庁の設置に伴い醸造所を大倉喜八郎率いる大倉組商会に払い下げられた。
さらに翌年、渋沢栄一、浅野総一郎らが譲り受け「札幌麦酒会社」を設立した。
一方、東京では1887年に近在の実業家達が出資を募り「日本麦酒醸造会社」が設立され、ドイツから醸造技師を招き、1890年「恵比寿麦酒」を発売した。
その後、麦酒醸造会社が乱立することになるが、1900年代に入り札幌、日本、大阪(旭ビール)麒麟の大手四社が過激な競争となり、日本麦酒率いる馬場恭平は 1906年に札幌、 日本、大阪麦酒の3社を合併させ、シェア7割の「大日本麦酒株式会社」を発足させる。
1949年に過度経済力排除法により、大日本麦酒は「日本麦酒と「朝日麦酒」に分割された。
日本麦酒は「サッポロ」「エビス」のブランドを継承したが、新たに「ニッポンビール」のブランドを採用した。1956年ビール愛飲家の要望により、発祥の地である北海道で「サッポロビール」を復活させ、1964年には会社名も「サッポロビール株式会社」とした。
1971年の暮れには28年ぶりに往年のブランドで、ドイツタイプである麦芽100%の「エビスビール」を復活させた。

 03年5月に発泡酒の税率が引き上げられた事に対する消費者の怒りは収まっていない。
「今度やったら後出しジャンケンの詐欺と同じだ」「消費者は喜んでいるのにお金に困ったことのない人達は、税収の少ないビール擬きは、ビール会社の税金逃れにしか思えないのだろう」「原材料によって税率が変わり、複雑で分かり難い欠陥税制を作っておいて、自分たちの想定外だったと云って、ルールを変えて増税しようとするのは卑怯だ」
石 弘光会長率いる政府税制調査会がビール風飲料(第三のビール)を視野に入れた酒税の包括的見直しを答申に盛り込んだ。勿論、財務省周辺からも「待ってました!」との声も聞かれ、酒税改正議論が沸き上がっている事に対する消費者の怒りの声だ。
与党税制調査会の幹部は「第三のビールへの課税強化は昨年十二月の2005年度税制改正の焦点になった。製法や原材料を工夫する事によって税負担を押さえた第三のビールだけを狙った増税は、国民の理解は得られない」メーカー側は立場上多くは語らないが「法律にも違反していない正当な開発行為に、売れたら税率を上げる考え方は、安易で企業のやる気がそがれます」と語っている。そして消費者の願いは「アルコールの入ったビール風味の清涼飲料水が、缶ジュース並の価格で買えるのだから、ささやかな楽しみまで取り上げないで欲しい」一方、エコノミストは「ビールと違った味を求める消費者が増えている。値段の安さだけでなく新製品に対する関心も高まっており、第三のビールは確実に売上を伸ばしていく」と予想している。

 第三のビールとは「通常のビールとは異なり、主原料を麦芽やホップなどに限定しないビール風味のアルコール飲料の俗称」との事である。
先行するサッポロ・ドラフトワンは今年も2200万ケースの出荷計画で、昨年に続き過去最高益を目指している。サントリーも昨年の6月に税制上はリキュール類に分類される麦焼酎を原料にした「スーパーブルー」で追随し、今年は1000万ケースの出荷を計画している。
キリンは原材料として大豆タンパクを用い、新商品名を「のどごし 生」として1970万ケースを販売してトップシェアを目指す。最後発のアサヒも大豆ペプチドから造った成分にスーパードライの酵母で発酵させた「新生」を4月20日から売り出した。計画は2200万ケースでこちらもトップシェアを狙っている。
大手ビールメーカー四社が出そろった。大手メーカーが新製品の開発や販売量の競争をして業界が活性化することは、消費者の利益に直結することで庶民としては大歓迎である。
キリンは「キリンラガー」で一人勝ちをしていた時代があった。キリンが独走しているころ、アサヒビールも消費者から忘れ去られていた。それが「スーパードライ」の大ヒットに続き、発泡酒の「本生」で快進撃を続けている。そして今度はサッポロ復活の番だ。サッポロは前述のように「ドラフトワン」で過去最高の経常利益を出して第三のビール市場で先行している。老舗メーカーとしての再起を確実にすべく「新市場の開拓者として負ける訳にはいかない」と4月5日には新製品「サッポロ Slims
(スリムス)」の投入を発表した。カロリー、糖質、プリン体をカットしたスッキリ味で、ダイエット志向の健康アルコール飲料だ。5月25日から関東甲信越地方から順次全国販売を予定し、CMには工藤静香、観月ありさを起用し放映される。老舗サッポロが後発3社を迎え撃つ体制が整った。




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