メロンの美味しい季節である。果物店やスーパーの店頭には種々のメロンが並んでいる。
近年は品種改良技術が進み、美味で手頃な価格で買えるネット系大衆メロンが大人気です。
メロンの原種はアフリカ西部のニジェール川の辺に自生していたとの説が有力です。
これがヨーロッパに伝わり、品種改良されてマスクメロンが誕生したと云われる。マスクとは仮面(mask)の意味では無く、麝香(じゃこう=musk)の意味で、放つ芳香が麝香のような香りがするメロンとの意味だそうです。
日本でもマクワウリは古代から栽培されていたが、マスクメロンは大正時代からとされている。庶民にとってマスクメロンは高嶺の花で、普段は食する事の出来ない高級果物だったが、プリンスメロンの登場で安価な大衆メロンのマーケットが開かれることとなった。
ヨーロッパにある甘く香りの良いシャランテという品種と、日本の高温多湿の気候風土にあっているマクアウリと掛け合わせたのがプリンスメロンである。しかし、マーケットからは高価な温室メロンにより近い外観や甘みや香り、そして低価格を望む声が高まった。
1977年サカタのタネより、消費者が買って安心、小売店が売って安心、生産農家が作って安心との事で「安心ですメロン=アンデスメロン」が開発された。
現在ではプリンスやアンデスのほかにもアールス系や赤肉系など多くの品種が開発されている。シーズンは 1月から始まるが、品種によって旬の時期が異なるため、夏メロンの収穫が終わる初秋の頃までいろいろなメロンの味を楽しむ事ができる。今では大衆メロンの登場で、みかん、イチゴについで大人気の果物のひとつになっている。
現在スーパーの店頭に並んでいる野菜の殆どは「一代交配種」「F1ハイブリッド」「雑種第一代」などと呼ばれるF1品種だと云われています。これはバイオテクノロジーや種子の交配によって、マーケットが望む形質を強化した種子を取得する技術です。
私たち消費者は「美味しい、形が良い、野菜独特のクセがない、価格が安い・・・」
小売店は「見栄えが良い、日持ちが良くて売れ残りのロスが少ない、売れ筋の野菜・・・」
外食産業やコンビニの弁当や惣菜で使用する場合は、大量に工場で加工することから「形が均一で、加工しやすく、形崩れしない、ローコストで販売出来る、味も良く・・・」
生産農家は「寒さに強く、害虫に強く、収穫量が多く、甘みが多く、形も均一で大きく、日持ちが良く出荷調整ができ・・・」など関係者からは様々な要求が出てきます。
種苗会社は、これらの要求にあった品種を開発するため、それぞれの特性を持った品種を掛け合わせて種子を穫り生産農家に販売しています。 メンデルの「優劣の法則」によると異なる形質をもつ親を掛け合わせると、第一代の子(F1=雑種第一代)は両親の優性形質が現れ、劣性形質は陰に隠れる。
あらゆる形質の優性遺伝子だけが現れるため、F1品種の野菜は見た目には同じになる。
メンデルの「分離の法則」ではF1品種の種子(F2=雑種第二代)から野菜を作ると優性形質3に対して劣性形質1の割合で劣性形質が現れる。
人間に喩えて云うなら、黒髪の男性と金髪の女性が結婚して子供が生まれると、すべて黒髪の子供が生まれます。黒髪の遺伝子の方が金髪の遺伝子より優性だからです。
論理的には次の世代では黒髪の子供3人に対して金髪の子供が1人の割合で生まれます。
昔から近親者同士の結婚は良くないと云われています。これを繰り返していると次第に生命力が衰え、体格も貧弱な子供が生まれます。これを近交弱勢とか自殖弱勢と云います。
これに対して日本人と欧米人のように遺伝子的に遠い組み合わせで結婚すると、両親より大きく、逞しく、丈夫な子供が生まれます。両親の遺伝子形質が遠く離れていればいるほど、この効果は顕著に現れるそうです。これを「雑種強勢」と云います。
フィクションの話になるが、戦争で逞しい戦士が必要な場合、私たち一般家庭から男系を排除し、妻や娘が人種の違う外国人と結婚し、一代限りの優秀な子供を生ませようとする技術です。但し、この子供には劣性遺伝子を持った子孫が生まれるため、子供を持つことは許されません。最近の不妊治療における人工授精で、医師や医療機関の倫理が問われている事が理解できそうですが、よく考えるとチョット怖い話ですね。
野菜の話に戻しますが、一代雑種の雑種強勢効果は種子をつける母株の雌しべに、異なる品種の雄しべの花粉がついて受精した時にだけ現れます。同一品種の雄しべの花粉が雌しべについた時には、優劣の法則も雑種強勢効果も現れない。
野菜の中には、トウモロコシのように雄花と雌花が同じ株に咲くもの(雌雄異花)ホウレンソウのように雄株と雌株が別々に育つもの(雌雄異株)ナスなどのように雄しべと雌しべが同じ花の中にあるもの(両全花)がある。雑種強勢効果を得るためには、異なる品種の雄しべの花粉が必要なため、同じ品種の雄しべや雄花、雄株を取り除く除雄の技術が必要となる。つまり、自分の花粉では種子をつけない性質を持たせる「自家不和合性」の技術や、成人男性の無精子症のように雄性機能が不能になる「雄性不稔」という技術が開発された。もちろん日本人研究者の創意と工夫の成果である。
優劣の法則により均一で形の揃った野菜ができ、雑種強勢の技術で生育が早く、収穫量も多く、味の良い野菜や果物が作られるようになった。
F1品種は良いことばかりのようですが、欠点はF1品種の作物から同じ品種の種子が穫れないことです。穫ったとしても第二世代以下は形質がバラバラとなり、同じ作物を育てる事はできません。同じ作物を作るためには、同じ種苗会社から同じ種子を買い続けなければなりません。このことは交配技術に優れた種苗会社は営業戦略として市場を独占する事が可能となる。同じように国としても植物の種子を征する事は、外国に対して食料を戦略物資とする事ができ、国や企業の倫理を問われる技術でもある。
因みにF1品種を作る交配技術と遺伝子組み替え技術とは違います。 サカタのタネは創業者の坂田武雄が大学卒業後に農商務省の実習生として欧米へ留学して園芸や種苗を学んだ。帰国後は世界で認められるタネ屋を夢に、苗木類や種子の輸出入を始め、大正 2年に坂田農園として創業した。大正 10年には日本で初めての発芽試験室を設け、昭和5年には茅ヶ崎試験場を開設して多種類の品種改良事業をスタートさせた。
現在の本社は横浜市都筑区にあるが、植物の特性から生育産地の気候風土と同じ条件で品種改良をする必要があり、今では国内はもとより19ヶ国34拠点を有している。
食の安全性や環境保全が叫ばれている昨今、農薬を使わずに済む耐病性のある品種の開発や有機肥料の開発、屋上緑化事業などにも取り組んでいる。
花卉類ではキングオブスノーをはじめとする120種類のトルコギキョウ、100%八重咲きするオールダブルペチュニア、世界で40%のシェアを持つパンジー、全米審査会などで金賞を受賞しているプロフュージョンなど多くの品種を開発している。
果物や野菜では前述したプリンスメロンのほかにもスイートコーンのハニーバンタムやピーターコーン、世界初の一代交配キャベツ、病気に強く収穫量が安定している高品質ホウレンソウのアトラス、米国カリフォルニアでは70〜80%はサカタの品種と云われるブロッコリーなどの品種を開発している。
食の安全を願う消費者としては、大衆メロンのブランドにもなったアンデスメロンのように「安心ですOO野菜」の商品開発が増えていって欲しいものです。
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