ブランドに学ぶ 儲けを生みだすビジネス・コラム

桃太郎のビジネスコラム 66

☆ 食文化の革命☆

2005.09.13号  

 71年 9月18日 20世紀の食生活を劇的に変えた食品が誕生した。何時でも何処でも、
お湯を注げば 3分で食べられる魔法の食品「カップラーメン」である。現在ではスーパーやコンビニへ行けば多くのメーカーからいろいろな種類のカップ麺が販売されているが、
当時としては子供のおやつ、サラリーマンの残業夜食など新しい食文化の誕生に誰もが驚いた。高度経済成長期のまっただ中、寸暇を惜しんで猛烈に働く日本人の胃袋を満たしただけでなく、世界中の飢餓や災害の復興現場などには欠かせない貴重な食料となった。
開発したのは日清食品の当時社長であった安藤百福と若手技術者だった。その頃の日清食品はラーメン戦争と呼ばれる他社との熾烈な価格競争に疲弊していた。安藤は業績悪化に苦しんでいたなかで、会社と自らの命運を掛けてカップ麺の開発に没頭した。
開発は困難を極め、カップの形にあわせた麺の中心部には熱湯が通らず、毎日 20回もの
試食を繰り返す連続であった。漸く出来た試作品も、問屋からは「こんなもの食べ物では無い」と拒絶されたりもした。食品加工技術の限界に挑戦した安藤と若手技術者達は、逆境のなかで完成させ「カップヌードル」と命名した。
現在までの販売累計は200億食にもなり日清食品の屋台骨を支える大ヒット商品となった。


 日清食品では 48年に中交総社として資本金 500万円で設立された。 58年 8月に世界で初めてのインスタントラーメン「チキンラーメン」を発売し12月に日清食品と商号変更
63年には「日清焼きそば」68年に「出前一丁」を発売。その後も76年「日清焼きそばU.F.O」「日清のどん兵衛きつね」87年チルドタイプの「日清のラーメン屋さん」92年には生麺タイプの「日清ラ王」など数々のヒット商品を生みだしている。
日清食品ではWebサイト上で「カップヌードルのひみつ」として、カップヌードルの原材料から工場での加工工程や流通経路までを情報公開している。
「原材料編」「工場編」「家庭へ届くまで編」として、子供が見ても判り易く説明している。
「ひみつのおまけ」として、箸の文化の無いアメリカではフォークでも食べやすいように麺を短くしているとか、インドでは宗教上の理由からポークやビーフ味のモノは販売していないなどの豆知識も披露している。
食の安全が叫ばれている中、麺の原料となる小麦や具材のエビやネギなどの原産地を詳しく公表して、消費者が安心して食べられる配慮がなされている。

 販売累計からすると地球上に暮らしている総ての人達が、カップヌードルを 3ヶ以上は食べた計算になるが、宇宙でもラーメンを食べた人がいた。日清食品が宇宙航空研究開発機構と共同で開発を進めた宇宙食ラーメン「スペース・ラム」は、日清食品の創業者会長である安藤の「宇宙食を開発したい」という強い意向を受けて開発が始まった。
スペースシャトル「ディスカバリー」に搭乗した野口聡一宇宙飛行士の宇宙食として、アメリカの航空宇宙局(NASA)の厳しい品質基準に合格して今回のミッションに搭載された。野口聡一宇宙飛行士は宇宙滞在2日目に宇宙で最初にラーメンを食べた人となった。
今では日本の国民食とも言えるラーメンだが、宇宙ではスープが飛び散るなどの理由で持ち込みが認められなかったが特別に開発したラーメンは麺を毛玉のように一口大に丸め
とろみのついたスープに絡めて食べるようになっていた。
しょうゆ味、みそ味、カレー味、とんこつ味の四種類が持ち込まれたそうだ。野口聡一宇宙飛行士がどの味を食べたかは報道されていないが、安藤の熱い思いは果たされた。
日本時間 8月2日午後に宇宙と地上で交信された記者会見では「びっくりするくらい地球
で食べる味が再現されていた。麺の味わいを堪能した」と話していた。ラーメンを食べた証拠として写真を撮り地球に送信したそして「ほかの日本人宇宙飛行士にも写真を送り
羨ましがられた」と得意そうな表情で語っていた。

 名物アイデア社長と云われた 95才になる安藤百福が掲げる、日清食品のバックボーンを探ってみた。安藤は三つの企業理念に基づき、新しい食文化の創造を目指すとしている。
日本の食文化に革命を起こした男の企業哲学を引用させてもらう。
「食足世平 しょくそくせへい」食は人間にとって何より大切なモノであり、食がなければ私達は自らの生命を維持する事ができない。芸術・文化・思想・・総ては食が足りてこそ語れるものである。戦後、寒風の中、一杯のラーメンを求めてラーメン屋の屋台に出来た長蛇の列、この光景がチキンラーメンを開発する原風景になった。“食が足りてこそ世の中が平和になる”日清食品の事業は人間の根源から出発している。
「美健賢食 びけんけんしょく」空腹を満たすことと、味覚を満足させること。食に求められているのは、それだけではないと考えている。医食同原という言葉にあるように、美しい躰をつくり、健康を維持することも、食のもつ大きな機能である。“美しく健康な体は賢い食生活からでありいつまでも健康であり続けるための機能性に富んだ食品開発も、日清食品が取り組む重要な課題である。
「食創為世 しょくそういせい」企業にとって最も大切なものは、創造的精神であると考える。独自の製品を生み、世の中に新しい文化を創り出すことこそが、企業の究極の目的である。単なるモノであることを超えひとつの文化として受け入れられる商品を生み出すことは、利益だけを求める姿勢からは生まれません。“食をつくり世のためにつくす”日清食品は、あらゆることに高い感性を持ちながら、地球社会に貢献する食品創造をめざす。




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