ブランドに学ぶ 儲けを生みだすビジネス・コラム

桃太郎のビジネスコラム 67

☆ ジュエラーの王様☆

2005.09.20号  

 1847年、宝石細工師 ルイ・フランソワ・カルティエが、パリのモントルゲイユ街13番地にメゾン・カルティエを設立した。88年に最初のブレスレット・ジュエリーを製作し、99年には高級店が居並ぶモードの中心街、ラペ通り13番地に移転した。1904年にイギリス王室御用達の勅許状を拝命し、これきっかけに39年までの35年間で15ヶ国の王室御用達の勅許状を拝命した。そのうちの9王室の紋章がパリ本店の各入り口の左右に掲げられている。贅沢でエレガントな宝飾品は、舞踏会など華やかな生活をおくる王侯貴族らの注目を集め、その保護下にあって企業としても成長していった。3代目のルイ・カルティエら3兄弟の時代になると、プラチナを宝飾品に本格導入するなど、新たな試みを次々と手がけて革新的なイメージを取り入れた。現在の人気商品のなかにも、その当時のイメージを受け継いでいるものが数多くある。

 1900年にルイ・カルティエは友人のサントス・デュポンから「飛行機の中で操縦桿を離さずに使用できる腕時計」の製作を依頼されたのをきっかけとして、宝石だけでなく時計の分野にも進出することになった。この初めての男性用腕時計は、あえてビスが見えるようなデザインにしたことが評判になった。このデザインは「サントス」というブランド名で、現在でも定番商品になっている。詩人のジャン・コクトーや女優のエリザベス・テーラーなど、多くの著名人達にも愛され続けており、97年には創立150周年を迎えた。宝飾工房の師匠からパリのアトリエを譲り受けて設立されてから、以来160年近い歴史が物語るように、カルティエの品質は常に最高水準を保ったまま現在に至っている。

 7月12日、表参道のスパイラル・ホールでカルティエの記者会見が行われた。この会見で11月26日に「カルティエ南青山ブティック」がオープンする事が発表された。カルティエ・インターナショナル代表取締役CEOであるベルナール・フォーナスは「ブティックが、ダイヤモンドをそのままブリリアンカットされたイメージとして形作られている」と発表。インテリアのデザインはブルーノ・モワナーであることも発表された。モワナーは03年7月にオープンした世界最大規模である1030平米の売場面積を誇る「カルティエ銀座2丁目ブティック」も手がけた建築家である。記者会見に同席したリシュモン・ジャパン代表取締役であり、カルティエCEOであるギャビン・ヘイグは「ダイヤモンドが多面体であるように、カルティエも多面体であり、さまざまな輝きを発します。カルティエの多面体とは、革新的であること。創造性豊であること、そして現代的であること」と語っている。青山近辺はファション性の感度は高いが、ティファニーやブルガリも出店していないように「高額商品の販売には不向きな場所と」云われ続けて来た。このような場所に堂々と路面店を出店するのは「カルティエのパイオニア精神である」とギャビン・ヘイグは語っている。つづけてベルナール・フォーナスは「ニューヨーク5番街にも、パリにも“PLACE DE CARTIER”と呼ばれる場所がある。東京にも“カルティエ通り”ができるかも知れない。カルティエはブランドであることを超え、いまや神話になりつつある。創造性がカルティエを神話的次元に引き上げている」とスピーチした。

 記者会見と同時開催された「青山芸術文化サロン」はカルティエが地域貢献のために立ち上げたシンポジュームである。メンバーに選ばれた女優の宮沢りえは、発売前の新作ネックレスを身につけて登場し、閉店時間は夜中だと聞くや「南青山ブティックを訪れるなら、シャンパンでも飲んで、ゆったりとした気持ちになってから出掛けたい」と話していた。ブティックがオープンする場所は表参道の御幸通り、プラダブティックの隣である。香港系の不動産投資会社ヴィロックスが建設中の商業ビルにメインテナントとして入る。このビルには三ツ星フレンチ・シェフの、ピエール・ガルニエールのレストランも入居する。高級レストランで食事をした後で、ゆったりと楽しみながらファション・ブティクやジュエリー・ショップで買いものをする優雅な光景が目に浮かんでくるようである。カルティエの銀座本店が91年にオープンしたときには、鍵付きの「ラブ・ブレスレット」や戦車をイメージした「タンク・ウォッチ」が若い世代に人気を呼んだ。今回もオープンにあわせて、11月に新作「ベビートリニテイ」(13万6500円〜39万9000円)「モナムール」(9万9750円〜26万2500円)クリスマス限定「パシャCリミテッド」(38万8500円)「ラブリング」(19万9500円)をリリースする予定である。カルティエは昨年度も国内売上を順調に伸ばしている。日本を重要なマーケットと位置づけており、従来の客層だけでなく「ニューリッチ・エリート」と呼ばれる、30〜40才代の富裕層やキャリアウーマンなどの客層拡大に力を注いでいる。かってイギリスのエドワード7世が、伝統と格式のあるカルティエのメゾンを称して語った最高の讃辞が伝わっている。「王様達のジュエラーであるなら、カルティエはジュエラーの王様である」


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