ブランドに学ぶ 儲けを生みだすビジネス・コラム

桃太郎のビジネスコラム 78

☆ 団塊世代のカジュアルブランド☆

2005.12.06号  

 今年は戦後生まれの世代が満60才を迎える。あとには 47年から49年生まれの団塊の世代が控えている。この 3年間に生を受けた人達は 2004年現在、全国で 680万人、51年生まれまでの世代を加えると 1092万人になり、全人口の約1割近くにあたる。
これらの人達が 07年から企業をリタイアし始める。いわゆる 2007年問題だが、正確には
2007年からの問題である東京都内には95万人の団塊の世代が暮らしていると云われる
95万人分の通勤交通機関は不要となり、駅の売店を始め周辺ビジネスは大打撃である。
同様のことが日本全国でおこり就業人口の減少によりオフィスでは余剰スペースが発生し
工場では技能の伝承が途絶え、その周辺ビジネスも激変すると予測される。
51年生まれが定年に達する2012年頃には、その変化が顕著になる一方、日本社会は新しい流れが起きていると思われる。団塊の世代は数のパワーで、それぞれの年代に応じて日本を変えてきており、この世代は鬼籍に入るまで日本を変え続けるだろう。

 名付け親である堺屋太一氏が講談社より団塊の世代を上梓したのは30年ほど前になる。
警世小説として出版されたが、振り返って見るとバブル発生、中高年の過剰、大企業や銀行の破綻、高齢化で活力が低下することなど、ことごとく予測があたった小説だった。
そしてこの10月には「団塊の世代 黄金の十年 が始まる」を文芸春秋より上梓した。
このなかで「官僚や学者の予測にはいつも裏切られた」と書いている。就職時には失業が増えるとの予測に反し、高度成長で逆に人手不足だった。中年になると窓際社員が増えて企業の負担が大きくなると云われながら、バブル景気で史上最高の利益を出した。団塊の世代が退職期を迎え、その下の世代の社会福祉負担などが増えて社会のお荷物になるとの指摘もあるが、多分これも裏切られることになる。団塊の世代は60才以降も働き続け、年金を貰いながら仕事をする年金併用・兼業型の職業が増え高齢者の職域は広がっていく。
若い人達向けには楽しむことの出来るコンテンツが多いのに、高齢者が誇りと楽しみを持って暮らすための商品があまりにも少ない。団塊の世代は同年代を対象にした商品を、自らが次々と生みだし、数年後には60代マーケットが爆発的に伸びるだろう。
時間とお金に余裕のある団塊世代が、平日に旅行やゴルフ、趣味や習い事、買い物などの消費行動を起こすようになると、多くの業界にビジネスチャンスが生まれてくる。
知識も見聞も広い団塊世代が自宅のある地域に目を向けると、地元の飲食店や商店街の質的向上を促し、ボランティア活動で地域のコミュニティも活性化されると思われる。
従来の「仕事優先」から「生活エンジョイ」へのギアチェンジが、自らと高齢化した地域社会の新しい生き方の提案となるであろう。
「人生 80才時代のいま、70才まで働いてあたりまえである。すばらしい 60代文化を生みだして欲しい」と一回り上の世代である氏からエールが送られている。

 「スーツを脱いだ団塊男性を狙え・・」とファション業界が新たな巨大市場をターゲットに動きだした。アパレル大手や衣料専門店が中高年男性を対象にしたカジュアル衣料のブランドや店舗を相次いで展開し始めた。団塊世代が定年を間近に控え、スーツに代わる普段着や外出着が必要になることを睨み、51年に故石津謙介が米東部の名門大学の学生達のファションを紹介し、アイビーブームを牽引したブランドも復活した。
VANは60年代にボタンダウンシャツに細身のスラックス、3つボタンのジャケットに代表されるアイビールックを提案し、爆発的ブームを巻き起こしたブランドである。
「みゆき族」(「みゆき族復活」6月21日刊)と呼ばれる社会現象まで引き起こしたが、会社は拡大路線に失敗し78年に倒産した。3年後に元役員らが新会社を興し、石津の遺伝子とロゴマークを引き継いだ。最近は60年代のブームを支えた団塊の世代が顧客の中心となっている。ネービーブルーやグレーを基調にした当時のイメージを保ちながら、素材の高級感を高めたジャケットが人気だという。当時は高価で手が出なかったファンが買いに来るケースも多いという。現在は「VAN SHOP」などを直営フランチャイズ22店舗と取扱店が33店ある約150種の生地や型ボタン裏地などの組み合わせでスーツやジャケットをオリジナルVANとして作る、パターンメイドが人気だという。

 11月に経営者による自社株TOBで上場廃止としたアパレル大手のワールド(「業態転換」11月22日刊)は 40代から60代をターゲットにした紳士服店「フォーティカラッツ アンド 525」を南青山に開店した。デザインは菊池武夫が担当、伊ロロ・ビアーナなど欧州の高級生地を使用して、カシミアのジャケットにカジュアルな綿のパンツを合わせるなど着崩しを提案している。
ダーバンも9月から50才以上の団塊男性を対象にしたカジュアル衣料専門店「ニブリック」を展開し始め、東京、横浜などに3店舗開業し、顧客がくつろげるようカフェも併設した。
ニブリックは 70年代にVANが一時的に展開していた幻のブランドである。
ユナイテッドアローズも今年 3月に 45才から60才向けの「ダージリン・デイズ」を東京
名古屋でオープンした。「豊かな時間を楽しむための服」をテーマにジャケットとパンツを中心に靴や小物のカバン類などを扱っている。6月にオープンした丸の内本店ではシャケットやシャツをまとめ買いする客も多いという。
家族向けカジュアル衣料専門店のコックスも団塊男性を対象にしたニューポートクラブ
を横浜市内に一号店を今月開店した。
カジュアル衣料専門店のポイントも中高年を対象にした「アンダーカレント」を来春から直営三店舗を展開する。
博報堂が7月に実施した意識調査によると、団塊男性の洋服への年間支出は平均82.651円で40代や60代の水準を上回っている。
カジュアル衣料各社は団塊男性の消費意欲と60代マーケットに熱い視線を送っている。




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