ブランドに学ぶ 儲けを生みだすビジネス・コラム

桃太郎のビジネスコラム 81

☆ フランス語のCM効果☆

2005.12.27号  

「D’urban c’est l’elegance de l’homme modeme」フランス語は判らないので発音もできないが、中年以降の男性諸氏は誰でも知っているテレビCMのセリフである。日本語に訳すと「ダーバンは現代を支える男のエレガンス」となるそうだ。出世作である「太陽がいっぱい」やジャン・ギャバンと組んでカジノから大金を奪う「地下室のメロディ」など数々の映画に出演して、日本にも多くのファンをもったアラン・ドロンが発するフランス語の名セリフで、設立まもないダーバンが一躍全国区となった。当時のダーバン・ブランドの知名度は90%を遙かに超えていたといわれる。女性向けのファションが主体であったレナウンが、紳士服づくりに秀でていたニシキと組んで、70年に資本金3億円で「株式会社レナウンニシキ」を設立し、翌年にはダーバン・ブランドの商品を発表、72年には社名もダーバンに変更した。ダーバンのビジネス・コンセプトは「高学歴、高感度で国際性をもったビジネスマンをターゲットに大人のファションを提案」することだという。ブランド・イメージは「男っぽい、カッコイイ、高級・高品質」を保つことだという。

 ダーバンはこれまでいくつものブランド商品を世に送り出してきた。75年に「インターメッツォ」80年「イクシーズ」92年「アール」96年「ゼファー」01年「サビサビ・デラックス」03年「マジマジ」「カリーナ」05年には「ニブリック」を発表している。日本を代表する紳士服ブランドは、日本人の体形を熟知しており、常に先進的なスーツを作り続けてきた末に辿り着いたのが丸い背広だ。腕の付け根が前にでている日本人には背中から丸く包むような形が合う。洗練されたシルエットを描けるのは、着用時のフィット感が得られるスーツだけである。高温多湿で湿度変化の多い日本では天然ウール生地が、1.5センチも変化することがあるという。縫製にはそれを補う高い技術が要求されるため、スーツの縫製は全て国内の工場で行っている。極細の糸を粗く織り、大幅に軽量化されたスーツの「ダーバン・モンスーン」は日本のメンズ・スーツに新しいジャンルを開いた。肩幅やウエスト部分のサイズも、個々に合わせて既製服の型紙を修正して製造する「パーソナル・オーダー」も国内生産の強みを生かした分野である。00年より提案しているビジネスマンのノーネクタイ・スタイル「アンタイド」も人気を集めている。今年流行したクールビズを先取りした提案でもあった。

 ダーバンの社名の由来を調べてみた。1922年5月に当時の英国皇太子プリンス・オブ・ウェールズ(のちのウィンザー公)が来日されたときの、御召艦レナウン号の供奉艦が英国海軍の巡洋艦ダーバン号だった。ダーバン号の艦名の由来は、当時英国領であった南アフリカのナタール州にあった軍港ダーバンからきており、その語源は1834年にその港を発見し、現在のケープタウンにあたる地域の総督をしていたサー・ベンジャミン・ダーバンの名にちなんでいる。“d’urban”という綴りは“〜 of urban”にあたるフランス語の“de + urban”であり、「都市の」あるいは「都会風に洗練された」という意味合いがあるとの説明がある。又、音声学上は濁音で始まるのは男性的な響きがあり、末尾の「ン」のように発音が鼻音に終わるのは語尾としての印象が強くなるのだそうだ。レナウンの子会社として発足したダーバンだが、社名の由来を調べると大変よく考えて付けられているのがわかる。

 ダーバンのビジネス・コンセプトがブランド・イメージをつくり、アラン・ドロンのCMとの相乗効果でダーバンは快進撃を続けた。77年東証二部上場、79年一部上場、84年新本社屋竣工、そして88年には東京物流センターを完成させた。昨年、レナウンとの経営統合で完全持ち株会社レナウンダーバンホールディングスを設立した。それにともない株式会社としての上場を廃止。売上高268億円、経常利益13億円(05年2月連結)の紳士アパレルの雄となっている。ビジネス系が55%、カジュアル系が45%とバランスのいい売上構成になっており、全国の百貨店内に190店舗を展開している。ダーバンも他のアパレル・メーカーと同じように、バブル崩壊後は低迷していた時期もあったが復活の道を走っている。11月8日にはアラン・ドロンも70才を迎えた。繁華街に貼られているダーバンのポスターを見ると、アラン・ドロンの息子かと間違えそうなくらい良く似たアメリカの俳優ノーマン・リーダスが起用されている。今のトレンドである細い襟のスーツを着たノーマン・リーダスが、アラン・ドロンの時と同じようにダーバンの快進撃を生み出すかも知れない。


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