哺乳器を始めとする育児関連用品のトップメーカーのピジョンが、保育や託児施設の運営を受託するなどの育児支援サービス、高齢者の介護支援サービスなどを手がけて業績を伸ばしている。売上高も 03年から05年は 330億円、341億円、407億円となっており、中期計画では08年には500億円を目指している。
1949年、日本で初めての「キャップ式広口哺乳器」を発売した。それまでの瓶に飲み口を直接かぶせる方式と比べ、衛生面で改善された製品だった。56年には機能だけを追い求めた育児用品に「育児は楽しくするもの」という考えを持ち込み、赤ちゃんが喜びそうな図柄を描いた「イラストつき哺乳器」を発売した。67年にはピジョンのキャップ式哺乳器が「JIS規格に認定」され、翌68年には国内シェアが80%にも達した。82年には赤ちゃんの成長に合わせて4ステップの飲み口に替えられる、取り替えカップ「マグマグ」を発売。新しいコンセプトから生まれたマグマグは育児用品の定番商品として大ヒットした。
ピジョンの哺乳器は発売以来50年以上にもわたり、さまざまな形状や素材が研究され、衛生面の改良や子育てを楽しくすることなどをテーマに商品開発が続けられてきた。 ピジョンの赤ちゃんを大切に育てたいとの思いは「ママのメイクシリーズ」として展開された。04年 4月に発売されたこのシリーズは、一般に市販されている化粧品では赤ちゃんに対する安全性への不安があり、若いお母さんたちから化粧品を気にせず赤ちゃんとスキンシップを図りたいとの声があった。そこで、赤ちゃんの肌にも安全な口紅やファンデーションなどのスキンケア関連商品を開発した。
育児支援サービスでは直営の保育園のほか、企業や商業施設、病院などから運営を委託された保育・託児施設は全国で 200ヶ所以上ある。国や地方自治体、企業などで子育てをしながら働く女性を支援する動きが広がっており、公立保育園を公設民営化する場合も多い。
事業所内保育施設では関東労災病院「白ばら保育園」トヨタ自動車「トヨタチャイルドケア ぶうぶタウン」、ヤマハ発動機「わいわいランド」など多くの企業から受託している。
展示会やイベント時などの臨時託児サービスではプランタン銀座、日本自動車工業会(東京モーターショー)サンフジ企画、メナード化粧品などからも受託している。
商業施設やホテルでの常設託児所では西武百貨店池袋店、そごう横浜店、ホテルニューオオタニ大阪の「ピジョンキッズパーク」、愛育病院の「キッズルーム」などを運営している。
コンサルティング業務では板橋区役所の「家庭福祉員」養成研修、府中市役所の「子育てボランティア」養成研修、日本航空からは客室乗務員の研修など多くの実績をもつ。
公営保育施設の受託運営も多くの自治体と契約しており、イーチラシドットコムの発信地である東京都大田区では「ビジョンランド雪が谷保育園」「大田区立山王保育園」「大田区立東蒲田保育園」の運営を受託している。 05年の暮れに厚生労働省の人口動態統計(年間推計)の分析が発表された。05年の合計特殊出生率は 1.26前後に落ち込み、過去最低となる見込みだという。06年6月頃に確定値がでる予定だが、さらに落ち込む可能性もあるという。この統計では出生数が死亡数を下回ったことも発表され、人口が自然減少していく時代に突入したようである。
出生率とは人口千人当たりの出生数を算出する。合計特殊出生率は出生率の分母となる人口数の部分を、出産可能な15才から49才までの女性に限定して、各年齢層の出生率を算出して合算したものである。この数値は既婚未婚を問わず一人の女性が、生涯に何人の子供を出産するかの近似値を示すものとされている。
少子化とは一般に人口置換水準(人口を一定の水準に維持していくために必要な水準で、合計特殊出生率では2.08といわれている)を下回った場合にいわれる。
団塊の世代が生まれた第一次ベビーブームの 1947年から 49年頃は合計特殊出生率が 4.0
くらいであった。その後は所得の向上や医療技術の進歩で多産多死から少産少死となり、優性保護法改正による中絶件数の増加や、避妊治療や用具の発達で夫婦間での出生率が低下するようになった。また、団塊世代の学歴競争を見た親たちが、子供を少なく産んで高等教育を受けさせようとしているのも少子化の一因であるようだ。
少子化傾向は続いていたが、70年代半ばまでは第二次ベビーブーマー達の出産により合計特殊出生率は 2.0を上回っていた。74年のオイルショック以降は人口置換水準を大きく下回るようになり、90年代前半には 1.5前後まで下がるようになった。03年は 1.291となり、04年は1.289となっていた。その理由としては未婚化や晩婚化がいわれており、最近では経済的理由による家庭内出生率の低下がいわれている。
総理府のおこなった男女共同参画社会に関する世論調査で「出生数が少なくなっている理由は何だと思いますか?」とのアンケート調査の結果を拾ってみた。
子供の教育費57.8%(男女別回答の平均値とした 以下同)、仕事との両立が困難44.2%、結婚年齢が上がっているから25.8%、家が狭いから16.3%、子供が欲しく無いから12.5%、趣味やレジャーとの両立が困難12.0%、未婚で子供をつくる抵抗感5.5%などとなっている。
遊び優先の親もいるようだが、子供を産まないのは経済的理由が多い事が判る。
回答を逆説的に見ると、子供が欲しく無い人の逆は子供が欲しい人であり、87.5%の人が子供を欲しがっていることになる。5.5%の人は未婚でも子供が欲しいということになる。
年金に関する将来不安や教育費などの経済的負担をはじめ、子育ての環境が変われば少子化傾向に歯止めがかかるかも知れない。 「お詫び 2005年 12月8日(木)午後 1時より、電話電源機器故障により、お客様専用フリーダイヤルに不都合が生じ、ご予約ならびにお問い合わせの電話を受けることができませんでした。お客様に多大なご迷惑をおかけしたことを心よりお詫び申し上げます」
ピジョンのホームページにあったお詫びメッセージである。
ピジョンのホームページには育児相談の掲示板があり、ひと月に800万から900万件のアクセスがあるという。これほど育児に不安を抱えているお母さんたちが多いことになる。
松村誠一社長は、あるインタビューに答えて「我々の役割は、お母さんの不安を解消するような商品やサービスを提供すること」と話している。
松村社長は大学生時代にガールフレンドの父(のちに義父となった)から、友人であるピジョン創業社長を「会社はまだ小さいが、育児の分野に情熱的に取り組んでいる人物がいる」と紹介された。大手証券会社に就職が内定していたのを、創業者の魅力に惹かれてビジョンに入社した。インタビューでは「入社するはずだった証券会社は数年前に破綻しました。ふとした人との出会いが、のちの人生を大きく変えることがある。実力や努力はもちろんだが運も必要です。運を呼び込むには日ごろから感謝の気持ちを忘れないことだと思います」と運を呼び込んだ謙虚な人柄が語っている。
ピジョンの企業理念は「愛」、社是には「愛を生むのは愛のみ」と書かれてある。創業社長の人物像まで偲ばせる企業理念や松村社長の人柄がピジョンの事業展開に表現されている。
今年は戌年である。犬は多産でお産も軽いという。「子を持つことは楽しく、人生を豊かにする」事が実感できるような「子や孫と明るく暮らせる家庭や地域社会づくり」が国家の礎である。今年になって政府自民党も本格的な少子化対策の検討に入った。国の行政やピジョンのような企業、国民が一体となって子育てを支援する環境を整備し、団塊の世代が育った活力ある時代を甦らせる戌年としたいものである。
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