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アメリカの高級皮革品メーカーであるコーチ(既号118.快走する四輪馬車)の、日本法人コーチ・ジャパンでは、今月より日本法人独自の制度として「レザー・スペシャリスト」と「リペア・スペシャリスト」の社内資格制度を導入した。従来は店舗スタッフであっても、管理職へのキャリアパスしかなかったが、制度の導入により資格を取得した社員は、接客能力に優れた専門職の道を追求できるようになった。
日本国内の約150店舗で働く社員の内、勤続2年以上の正社員全員に資格を取得するチャンスが与えられる。コーチ・ジャパンでは4月以降から年末までの期間に、学習用教材を社員に配布し、基礎トレーニングのプログラムを全国で数十回行う予定である。来年早々には筆記と実技、それに個人面談を重ねる社内選考を実施する。同社の革製品に関する高い専門知識を習得した社員には、レザー・スペシャリストの資格が与えられる。同社製品の製造工程について、高い専門的知識を習得した社員には、リペア・スペシャリストの資格が与えられる。一年後となる来年春には、スペシャリストの資格を得た社員が、高い製品知識を持って接客サービスを行うようになる予定だ。
創業以来70年近い歴史を持つ同社が、商品のみならず革製品に関する知識や、商品を購入した後の手入れ方法など、顧客に様々な情報を提供することによって、顧客満足度向上を狙っている。また、アフターフォローのサービスを向上させることにより、同社ブランドへのロイヤリテイーを、高める効果も得られると期待している。同社が販売する中高価格帯のハンドバッグや財布などに、顧客が「持つ喜び」「使う喜び」を感じて貰うような情報を提供することも、商品価値の一部と考えている。
コーチ・ジャパンのビクター・ルイス代表取締役社長兼最高経営責任者は、常日頃より「会社が将来に亘って成功していくためには、絶え間ない改善が必要であり、会社を改善するプロセスに、積極的に社員が関与してくれるように、経営陣は努力していく」と社員に呼びかけている。その一環として経営や労働環境、職務や社内コミュニケーションなどについて、社員の満足度をヒアリングする従業員調査を毎年実施している。
この従業員調査において「店舗スタッフのキャリアパスを増やして欲しい」との声が多かったことが、今回のスペシャリスト資格制度に結びついた。タイミング的にも経営陣が「老舗レザーブランドとしての、歴史と品質を顧客にもっとアピールしたい」と議論を重ねていた時期でもあった。経営陣は「店舗スタッフは充分な教育を受けることで、顧客に素晴らしいサービスが提供でき、スタッフ自身も同社で働くことに幸せを感じることができる」
と確信を持ったことが資格制度導入を決定づけた。さらに、同社は自社の製品品質に対する絶対的自信をアピールするため、現在の無償修理保証期間を6ヶ月から1年に延長することを検討中だという。
本国の米・コーチ率いるルー・フランクフォート会長兼最高経営責任者の指揮の下、業績は快進撃を続けている。2008年6月期決算は、売上高が対前年比22%増の31億8000万ドル、営業利益は対前年比15%増の11億4700万ドルと、営業利益率も36%と絶好調である。
高級なヨーロッパ・ブランドより、若干安い価格に抑えた「アクセシブル・ラグジュワリー」(手の届く高級品)と呼ぶ新市場を開拓することによって、急速に業績を拡大してきた。
因みに、コーチ・ジャパンの売上高は、全社売上高の20%を占めているという。
コーチは日本の隣国である韓国で、釜山新世界センタムシティのオープン記念として、コーチ・トート・プロジェクトを進めている。このプロジェクトには20人余りのアーテイスト達と、セレブリティ達が参加し、2月7日から4月5日まで釜山新世界センタムシティに展示された。人気漫画雑誌マーガレットに連載され、アニメやドラマで人気を博した「花より男子」の韓国版F4、キム・ヒョンジュンやキム・ボム、キム・ジュンも参加。
韓国のトップスターであるソン・ダンビやカン・ヘジョン、イ・ハナを始め、多様な分野のセレブリティとアーテイスト達が色鉛筆、絵の具やマーカー、それに布やビーズなどを使用して、それぞれのスタイルや個性でデザインした。
今回のプロジェクトに使用されたキャンバストートは、コーチのクラッシックアイコンである最初のトートバックのデザインを基本にしている。このバッグは、今では伝説のデザイナーとなったボニー・カシンが、1962年にコーチに合流し、紙袋から霊感を得てデザインしたと云われるトートバッグである。
テイストメーカー・トートはオンラインオークションを通じて全て販売され、調達された収益金は全て、恵まれない児童を助けるために、子供財団に寄付される。
コーチは創業からしばらくは、バッグや財布などの皮革製品で、比較的高い年齢層のブランドイメージであった。それが1985年にサラ・リー社に買収され、2000年にニューヨーク証券取引所に上場された頃から、総合ファッション企業へと急速な路線変更をした。
デザインや公告なども若者向けにイメージを一新。エルメス(既号220.御すのはお客様)やルイ・ヴィトン(既号16.LVMHの5バリュー)よりも価格設定を低くし、素材も造りも高品質であったことが、多くのファンを獲得した。生産はドミニカ共和国や中国に委託し、コストの削減にも注力した。販売戦略もアウトレットで比較的低価格で販売して顧客を惹き付け、製品の良さを実感した顧客を旗艦店に誘導する手法を執った。この戦略が見事にあたり、ブランドは急成長を遂げた。
2003年に東京・渋谷に旗艦店をオープンしたときには、渋谷の繁華街に散らばって配置されたモデル達が、通行人にFollow Me(私について来て)と書いたカードに添えた花を渡し、そのモデルに付いていくとオープニング・セレモニーにたどり着く。街灯にはフラッグを立て、10面の大型ビジョンを並べ、ラッピングバスには大公告を出して、まさに渋谷をジャックした様は大きな話題となった。
現在、高級ブランド市場調査で、アメリカ男性が選ぶ最も人気のある高級ブランドは、グッチ(既号127.ブランド商品の元祖)、ルイ・ヴィトン、プラダ(既号205.ブランドの迷走と再起)を抑えてNO.1になるほどの支持を集めているという。日本市場においても、社内資格を取得したスペシャリスト達が戦力化すれば、さらなる飛躍も期待できそうである。
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