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国内の二輪車(オートバイク)出荷台数のピークは、1982年の約328万台。その後は空前の好景気となったバブル期にも出荷台数は減少を続け、2008年は約52万台と六分の一にまで落ち込んだ。一方、縮小する国内市場で出荷台数を増やし続けてきたのがハーレーダビッドソンだ。日本法人ハーレーダビッドソン・ジャパン(HDJ)は、1989年に設立して以降19年連続して出荷台数を増やしている。1989年の出荷台数2931台に対し、2008年には1万5698台となり5倍以上の実績を誇る。ハーレーの二輪車は排気量1000ccを超える大型車が中心となっており、最小でも883ccである。751cc以上の大型車市場でのシェアは36.3%で2位以下の3倍以上を占めてトップ。対象を400ccの中型車まで広げても27.8%でシェア一位に座る。価格はメーカー希望小売価格ベースで88万3000円から444万7000円となっており、概ね国産車の2倍程度である。しかし、走行性能は国産車の方が優れていると云われる。本場の米国市場ならまだしも、ホンダ（既号32.ホンダを支えた男）やカワサキ、それにヤマハやスズキ（既号135.経営者は名誉より実利）など並み居る国産メーカーを尻目に、快走しているのは「オートバイと言えばハーレー」と言い切る熱狂的なファンが多いからである。この熱狂的ファン獲得に成功したのが、トヨタ自動車（既号38.加速するトヨタ）から転じて1991年にHDJ社長に就任し、2009年に最高顧問に退くまで18年に亘って経営のハンドリングをした奥井俊史だった。奥井が就任直後に着手したのが販売店改革だった。販売店の多くはオートバイ好きが高じて店を開いた個人商店で、資金繰りや在庫管理は二の次だった。床には部品が散乱し、メカニック姿の店主が接客するなど、洗練されたイメージからは程遠かった。値引き販売は当たり前で、更なる値引きを期待して販売店回りをする顧客も多かった。奥井は安売り商法から脱皮して、利益からアフターサービスや展示スペースの充実もできるよう指導。販売店によっては財務諸表を提出してもらい、経営指導をすると共に受注台数や在庫を把握できる情報システムの導入も支援。そして最も力を入れたのが、ハーレーと云うブランドが持っている価値を再認識することと、ハーレーのある暮らしの楽しさを伝えるライフスタイルマーケティングの手法だった。
顧客に製品やサービスの購入を促す価値は、大きく分けると基本的価値、機能的価値、情緒的価値、自己表現価値がある。これを順にハーレーに当てはめると「移動手段である、馬力がある、レトロな乗り心地で排気音が気持ちいい、自分を自由奔放で野性的なイメージに表現出来る」となる。これをエルメス（既号220.御すのはお客様）のバッグにも当てはめてみよう「袋物である、中身が潰れない形状、持っている人が少ないので優越感がある、自分を上流階級のイメージに表現出来る」となる。シャンプーに当てはめると「髪を洗う物、フケや痒みの防止、髪がサラリとする、清潔で爽やかである」となる。高級ブランド品は自己表現価値や情緒的価値が優先され、日用品は基本的価値や機能的価値が優先される。そこでHDJでは顧客がハーレーを購入することで、自己表現価値を高められる手法に力を入れてきた。「顧客に提供するのはハーレーという製品でなく、ハーレーのある暮らし」という、ライフスタイルの提案である。因ってHDJでは家族も一緒に参加して楽しめるイベントの企画を数多く開く。HDJが主催するものだけで毎年50回ほどあり、販売店が主催するものを含めると実に1000回近く開催している。会場ではオーナー達が一緒になって愛車を走らせ、アトラクションを通じてオーナー達が連帯感を持ち、ハーレーというブランドへの愛着を深耕していく。日本のファンクラブは全国145ヶ所、3万8000人の会員が楽しんでいる。こうした企画が世界でも131カ国で開催、会員は110万人にも及ぶ。
角川映画「ロストクライム」が公開されている。隅田川で起きた殺人事件が、1968年12月の三億円事件に繋がっていくストーリーだ。東芝府中工場のボーナスを積んだ現金輸送車に白バイが近づき「車に爆薬が仕掛けられている」の一言で294.307.500円が犯人の手に渡った。犯人が使っていたのはヤマハR1350。オートバイは映画の自由奔放な野性的イメージの役作りに欠かせない道具として使われる。1953年にマーロン・ブランド（既号223.若者達のジーンズ ）が、暴走族のリーダー役を演じた映画「乱暴者(あばれもの)」にはトライアンフのサンダーバードが使われた。革ジャンにジーンズとオートバイという若者スタイルの走りとなった映画である。1963年のスティーブ・マックイーンの「大脱走」でもトライアンフが使われ、国境の鉄条網をジャンプしようとするシーンは、オートバイファンを魅了。同じくマックイーンのモトクロス・ドキュメンタリーとして最高傑作の「栄光のライダー」では、ノートンのフレームにBSAゴールドスターのエンジンを積んだマシンが使われた。1971年の「バニシング・ポイント」では、ブロンドの美女がオールヌードでホンダCB350EXに跨り話題となる。1975年の「ル・ジダン」では、アラン・ドロン（既号228.紳士の帽子 ）がカワサキ500SSマッハ�靴望茲襦�1968年の「あの胸にもう一度」ではハーレーのFLH1200エレクトラ・グライドが使われ、原作の題名もずばり「オートバイ」。日本でも「月光仮面」や「仮面ライダー」にオートバイが登場。大藪晴彦の小説「汚れた英雄」の映画化では、ほとんどヤマハのプロモーション・ビデオと化している。1969年の米映画「イージーライダー」は、チョッパーブームのきっかけとなった。チョッパーとはバラバラにしたものとの意味で、車検のないアメリカで中古パーツを組立ててカスタムバイクに仕上げる趣味。映画に使われたのはハーレーダビッドソンである。映画はアメリカの真の姿を求めて、自由な旅を続けた二人の若者の物語。ベトナム戦争以後のニューウェーブと呼ばれる若い世代の、青春の苦悩と挫折が描かれている。『マリファナの密輸で大もうけしたキャプテン・アメリカ(ピーター・フォンダ)と、ビリー(デニス・ホッパー)は大型バイクを買って旅に出た。二人は自由の国アメリカの幻影を求めて、フロンティア精神の母国である南部を目指して気ままに走る。途中で一人のヒッピーに出会い、彼の案内でヒッピー部落に入る。しかし、自由を行動で表現する二人を部落民達は拒絶。再び旅を続けてラスベガスでは、許可なしでパレードに参加したとして留置されてしまう。そこで知り合った酔いどれ弁護士ジョージ(ジャック・ニコルソン)と意気投合し、謝肉祭を見物するためにニューオリンズへ走る。三人はマリファナを吸い、野宿しながら旅を続けるが、沿道の村人や保安官は殺意を持って迎える。ある夜、三人は襲撃され、ジョージは惨殺されてしまう。二人は謝肉祭への興味も失せ、娼婦を連れて墓地へ行き、アメリカの保守性を呪訴し、自由の欠片も無いことを悲しんだ。やがて、州境にさしかかった二人に、農夫が乗ったトラックが近づき、一人の農夫が突然銃弾を発した。ビリーはオートバイごと転倒。後を追ったキャプテン・アメリカも続いて発射された弾丸に吹っ飛んでしまう。二人が求めた自由の国アメリカの真の姿は、狂信的な保守的国家だった。二人の自由という考えに対するアメリカの答えは「Wrong(道徳的に誤っている)」であった。』
ハーレーダビッドソンは米ウィスコンシン州ミルウォーキーにあるオートバイ製造会社。通称はハーレーである。1903年にアーサーとウォルターのダビッドソン兄弟と、ウィリアム・シルベスター・ハーレーによって設立された。ハーレーの名が先にあるのは、オートバイの心臓部であるエンジン開発を担当したからと云われている。ハーレーダビッドソンは、大排気量空冷OHVでV型ツインエンジンが発する独特の鼓動感と外観が最大の特徴で、これに魅せられたファンが多い。駆動はクランク運動をプライマリーケース内でチェーンからベルトに変換されて、後輪へ伝動するベルトドライブ方式である。かつては小型スクーターなども製造していたが、日本メーカーとの競合で採算の取れない車種は廃止。現在ではアメリカのフリーウェイを、長距離走る車種が主流となっている。日本には1912年に陸軍が初めて輸入し、サイドカーを中心として軍用車両として使われた。後に警察でも使用するようになり、宮中行事のパレードなどでは、車列を先導する白バイにも使用されたことがある。一時期は陸王の名でライセンス生産されたこともあったが、製造会社の倒産により、再び代理店による販売となった。HDJが設立されてからは販売ルートが整備され、個人の並行輸入は激減。日本のファンには政治家の小里貞利、西村眞吾、橋下徹。タレントの高田純次、所ジョージ、高橋ジョージ・三船美佳夫妻。歌手の稲葉浩志、長渕剛、長瀬智也。女優の松雪泰子、吉田真由子。スポーツ界でも田上明、徳山昌守らがいる。ドラマ「あぶない刑事シリーズ」では、舘ひろしがハーレーを運転しながら手放しで発砲するシーンが有名で、ワイルドな格好良さを表現していた。
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