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桃太郎のビジネスコラム 334

☆ 日本のクリスマスケーキ☆

2010.12.15号  

 クリスマスケーキ(Christmas cake)はクリスマスを祝って食べるケーキで、イギリスやアイルランドを始めとする欧米諸国、日本やフィリピン等の国々で広く親しまれている。昔イギリスにはこの時期、ミンスパイと言って小さなフルーツを焼き込んだパイを食べる習慣が有ったようだ。しかし、清教徒革命の時には、クリスマスを祝うことを禁止された。この時のミンスパイ禁止法は現在でも、有効な法律とされているが、取り締まりの時に見つかり難いようにと小型化されたため、実際にはこの法律は無視されているそうだ。フランスでは木の幹を横にしたような、ブッシュドノエルというケーキを造る習慣があった。これがドイツだと楕円形を横にしたようなシュトレンという、ドライフルーツのケーキがある。イタリアではパネトーネというドーム型のケーキ。ロシアや東欧ではパネトーネと同じようなクリーチというケーキが造られており、クリスマスにも焼かれるが復活祭に焼かれるケーキのイメージが強いと云われる。オーストリアやフランスのアルザス地方では、円筒の中が空いているドーナツのような形状をしたクグロフというお菓子を焼く地方もあるらしい。さて、日本ではケーキはクリスマスに、欠かせないアイテムになっている。1923年の東京日々新聞に「Xマス近づく」との見出し記事があり、クリスマスを祝う習慣があったようだ。一般的な習慣としては1960年代中半からで、その頃はチョットお洒落なカップルや、経済的にも多少余裕のある家庭であった。1970年代中半になると、洋菓子メーカーの戦略的販売などで、何処の家庭でも食されるようになっていった。クリスマスケーキはスポンジケーキにホイップクリームやバタークリームを塗り、砂糖細工のサンタクロースやクリスマスツリー、イチゴやチョコを飾り付けたものが一般的である。サンタクロースを象った蝋燭に火を灯すことも多いが、このような習慣は、欧米ではあまり見かけないようである。1990年代中半までのケーキをクリスマスイブに食べるというのも日本独自の習慣で、欧米とは少し異なった文化として根付いていた。その頃には日持ちがしないため25日には安売りをされたことから、25歳以上の独身女性をクリスマスケーキと揶揄する言葉があった。しかし、現在は冷凍技術も進歩し、アイスクリームケーキなども造られ、25日になっても価格を下げていないようだ。それに女性の結婚適齢期に対する考えも変わったことから、このような揶揄する言葉は死語となっている。

 日本で最初のクリスマスケーキを造ったのは、洋菓子メーカーの不二家と云われている。不二家は1910年に藤井林右衛門が25歳で、横浜元町(既号36.ファッション・エキスプレス)にて創業した。この年にプラムケーキにフォンダン(砂糖のシロップで造った衣)のコーティングを施し、銀玉をつけたシンプルなクリスマスケーキを造ったとされる。1922年にはショートケーキを販売しており、この頃からクリスマスケーキもフルーツケーキではなく、スポンジケーキを台にしたものを造っていたようだ。不二家の社名の由来は、創業家である藤井家の「藤」と日本のシンボルである「富士山」、それに「二つと無い存在=不二」から命名した。不二家のシンボルマークであるFには、不二家のイニシャル(Fujiya)、ファミリア(Familiar=親しみ)、フラワー(Flower=花)、ファンタジー(Fantasy=夢)、フレッシュ(Fresh=新鮮)、ファンシー(Fancy=可愛い)の6つの意味が込められている。デザインは近代インダストリアルデザインの旗手レイモンド・ローウィ。ローウィはパリ出身だが主に米国で活動。主な作品はボールドウィンDR6型ディーゼル機関車、お鍋のル・クルーゼ「コケル」、タバコの「ピース」や「ラッキー・ストライク」、米国空軍エアフォース・ワンなど、「口紅から機関車まで」という本を出版したくらい様々な分野で活躍した。このような先進的なデザイナーと組む不二家の経営感覚は、1960年代にインダストリアルエンジニアリングやコーポレートアイデンティティという、当時としては革新的な経営管理手法を導入し、洋菓子店やレストランのフランチャイズチェーンの展開につなげ、業容は大きく拡大していくことになる。

 クリスマス(Christmas)はイエス・キリストの降誕が12月25日とされ、「神が人となって産まれてきた」ことを祝う記念日・祭日である。語源はキリスト(Christ)のミサ(Mass)である。しかし、キリストが実際に誕生した日は定かではない。起源は太陽崇拝にあるので、聖書の教えでは12月25日を祝う習慣はない。キリストが死んだ後の時代になってから、宗教指導者達がキリストの誕生日を、ローマの異教徒達が祝う「征服されざる太陽の誕生日」と同日にすることを考えた。これにより異教徒達を(名目上において)キリスト教徒に改宗させることが容易になった。同時に当時の17日から24日の期間には、ローマの農耕神を讃えるサトゥルナリア祭が行われており、この祭りでは宴会を催したり、贈り物をする風習があった。このようにクリスマスがキリスト教の教えではなく、異教徒に起源を持つことが広く認められるようになった。因って、17世紀の清教徒革命が起きた頃にはイングランドや米国の植民地では、クリスマスを祝うことが禁じられた。しかし、現代では一般の人々が聖書やキリスト教に親しむ機会として有用なことから、クリスマスのために教会が門戸を開くようになり、日本では信者以外の人達も楽しむようになった。サンタクロースはクリスマスの前夜に、良い子のもとへプレゼントを持って訪れるとされる伝説の人物である。4世紀頃の東ローマ帝国小アジア司教、キリスト教の教父聖ニコラウスの伝説が起源である。「ある日ニコラウスは貧しさのあまり、三人の娘を嫁がせることのできない家庭を知った。ニコラウスは真夜中にその家を訪れ、屋根の上にある煙突から金貨を投げ入れた。この時に暖炉に靴下が下げられていたため、金貨は靴下の中に入っていたという。この金貨のおかげで、娘を身売りせずにすんだ」という逸話が残されている。靴下の中にプレゼントを入れる風習も、この逸話からきている。このほかにも無実の罪に問われた死刑囚を救った話など、幾つもの聖説が伝えられている。また、学問の守護聖人としても崇められており、アリウス異端と戦った偉大な教父でもあった。教会では聖人として列聖されているため、聖(セント)ニコラウスという呼称が使われている。これをオランダ語にすると「シンタクラース」と読み、オランダでは14世紀頃から聖ニコラウスの命日12月6日を「シンタクラース祭」として祝う習慣があった。この日に子供達が枕元に靴下を吊しておくと、翌朝にはお菓子が入っているのである。その後、17世紀に米国に植民したオランダ人が、英語読みで「サンタクロース」と伝えて語源になった。12月25日は聖体儀礼に教会へ行く日で、本来プレゼントをする習慣はなかった。しかし、この日をクリスマスのお祝いと一緒にした方が良いという風習が根付いて行ったようである。

 不二家のイメージマスコットは「ペコちゃんとポコちゃん」で、キャッチコピーは「おいしさは、しあわせに向かう」である。創業12年後の1922年に横浜伊勢佐木町にレストラン1号店をオープン。翌年には銀座にも進出する。1930年には合名会社不二家となり、大田区・大森に出店。1951年に発売したキャンディー「ミルキー」は大ヒット商品となる。1964年発売の「不二家ネクター」で飲料業界にも参入。1973年の英マッキントッシュ社と提携した「キットカット」チョコもヒット。同年に米バスキン・ロビンス社との合弁したアイスクリームチェーン「サーティーワン・アイスクリーム」や、チェーン店展開する「不二家のケーキ」や「不二家レストラン」は子供達や女性客から圧倒的な支持を得る。その後もロードサイド・レストランのチェーン展開でも業績を後押し。順風満帆に業績を伸ばしていた不二家だったが、一族経営の気の緩みか、思わぬ事態が発生する。2007年1月に消費期限切れの牛乳をシュークリームの製造に使用したいたと報道される。実際には賞味期限切れだったのだが、マスコミの誤報も加わり大きな話題となる。その後は、消費期限切れの鶏卵を使用したシュークリーム。消費期限切れのリンゴ加工品を使用したアップルパイ。厚生労働省のガイドラインである洋生菓子の衛生規範(食品衛生法ではない)に定められた値の10倍、社内規定の100倍の細菌が検出されたシューロール。社内規準を超過した賞味期限を表示したプリンの出荷。埼玉工場で月に数十匹のネズミが捕獲されていたこと。また、チョコレート製品に蛾の幼虫が混入していたが、製品回収を実施していなかった事実の判明。次々と品質に関する問題が噴出した。品質管理の国際規格であるISO9001-2000版について、検査・認証機関のSGSジャパンによる再検査の結果、規準を満たしていないことが判明。さらにはTBSの朝番組で粉飾決算の疑惑まで指摘され、知名度のある会社だけに全国的な話題となる。洋菓子の製造販売を一時休止するなど、一部のマスコミからは雪印乳業(既号19.ブランドの崩壊)の、二の舞になるのではないかと懸念する声まで出てしまった。事態打開のため不二家はメインバンクのりそな銀行と、山崎製パンに品質管理などの業務支援を要請。現在は山崎製パンが51%を出資する筆頭株主。今年は創業100周年にあたり、再スタートの年として8月にはペコちゃんの新衣裳も発表。業績も回復の兆しも見せ始めており、クリスマス商戦への体制も整ってきた。


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