ブランドに学ぶ 儲けを生みだすビジネス・コラム

桃太郎のビジネスコラム 255

☆ ファッションは鮮度が命☆

2009.06.03号  

 スペイン・ガルシアのアパレルメーカー、インディテックスが展開するファッションブランド「Zara」は、1975年にスペインのラ・コルーニァに一号店をオープンさせた。
その後は積極的に出店を続け、昨年までに世界60ヶ国に4000店舗以上を展開している。急成長の原動力は2つのスピードにある。一つは商品化のスピードである。300人を超えるデザイナーが、東京・NY・パリ・ミラノなどで掴んだ流行を、即座にデザインする。速いときは1週間、平均でも3週間で最新の流行を取り入れた服ができあがる。次に流通のスピードである。ヨーロッパ各地の工場で生産された服は、スペインにある物流センターに直送される。物流センターの規模は、東京ドーム10個分に相当するという。
そこで商品は配送地域ごとに自動仕分けされ、近隣諸国にはトラック便で、日本やアジアには航空便で運ばれる。ヨーロッパ各地には48時間以内で、日本やアメリカでも4日後には店頭に商品が並ぶという。日本やアメリカなどへの空輸は、船便と比較すると3倍のコスト高になるが、「ファッションは鮮度が命」をポリシーとしている。
商品化のスピードと、物流のスピードは、商品デザインの時期と発売時期との、インターバルを縮めることが重要なポイントとなっている。GAP(既号243.世界一のカジュアルブランド)やH&M(既号217.ファスト・ファッションの雄)、それにユニクロ(既号161.世界ブランド「ユニクロ」)を展開するファーストリテイリングなども、目標にしているという脅威のビジネスモデルである。

 取扱商品は子供服から婦人服、紳士服まで幅広く展開し、高いファッション性の割には手頃な価格帯になっていることが、消費者に支持されている。こうした商品供給を可能にしている理由の一つに、サプライチェーン方式を採用していることにある。自動車のトヨタや、パソコンのデルが取り入れている方法だ。アパレル業界では広告戦略と、流行が密接な関係がある。流行を意図的に創出する場合、広告と流行服を大量供給する前に、準備期間が必要となり、業界ではデザインしてから新商品が発売されるまで、概ね6ヶ月くらい要するのが平均である。Zaraでは流行と同期しない商品作りをしているため、短期間での商品供給が可能になるのである。流行に同期しないことは、デッドストックが発生する可能性もある。そのためには一商品あたりの生産量を控えめにし、在庫点数を極力少なくしている。因って、売り切れが発生しても商品は補充されない。このような販売手法は、消費者に決定権がありがちな商品寿命を、メーカー側が握ることになり、結果として商品サイクルが速くなり、消費者側の「今、この商品を買わなければ、後で買うことができないかも知れない」という、顧客心理を上手く利用することにも繋がっている。また、数週間で店頭の商品が入れ替わるためファンとなった消費者は、何度も店頭に足を運ぶことになる。Zaraによる統計では、ロイヤルな顧客は年間17回足を運んでいるという。
Zaraは広告に対する考え方もユニークで、ランニングコストとなる通常の広告には、殆どお金を掛けない。その代わり出店する場所は、その地の一等地と云われるポイントに出店し、ガラス張りの目立つ店舗を目抜き通りに構える。そのことで、店舗自体が広告塔としての役割を果たしている。価格設定もしたたかな戦略を執っており、各国の消費者イメージに合わせて価格を変えているという。日本市場でのZaraのイメージは比較的高く、同じ商品でもスペインの店舗より2倍以上の価格となっており、米国やヨーロッパの主要20ヶ国の中でも、日本が最も価格が高いと云われている。
こうした経営戦略が、非常に高い利益率を生んでいる。一般的には全体の半数近くが、値引き販売せざるを得ない業界で、Zaraは値引き販売の割合が極めて低く、高収益の体質を創り出している。そして、利益の大半を新規出店に振り向けているため、出店の頻度が極めて速い。日本でも10年前には殆どの消費者が、名前も知らなかったブランドだが、今では世界各地のファッション街には必ず出店している。このような急成長を牽引してきた創業社長アマンシオ・オルテガは、スペインで1番、ヨーロッパ国籍では4番、世界でも10番目の億万長者となっている。

 3月11日、米フォーブス誌が2009年版世界長者番付・億万長者ランキングを発表した。
該当者は793人だった。ベスト3は、1位マイクロソフト会長のビル・ゲイツ(米・3兆8000億円 1$=95円換算 以下同)。2位は投資家のウォーレン・バフェット(米・3兆5200億円)。3位は電話会社オーナーのカルロス・スリム(メキシコ・3兆3300億円)。ビル・ゲイツは一昨年まで13年連続1位だったが、昨年は3位に転落。昨年の1位ウォーレン・バフェットと2位カルロス・スリムは、ビル・ゲイツの返り咲きで一つずつ順位を落とした。ランキング上位は例年の顔ぶれと、大差がないが基本的に会社の創業者や創業家が並んでいる。上位30傑からジャンル別にベスト3を選んでみると。
高齢者では6位に小売業アルディのカール・アルブデヒト89歳(独・2兆0400億円)と9位テオ・アルブデヒト87歳(独・1兆7900億円)。21位にロレアルのリリアンヌ・ベッタンクール86歳(仏・1兆2700億円)。若年者では共に26位のグーグル創業者、サーゲイ・プリン35歳と、ラリー・ペイジ36歳(米・1兆1400億円)。続くのが7位リライアンス・インダストリーズのムケシュ・アンバニ51歳(インド・1兆8500億円)。
小売業では5位にイケア(既号92.北欧の家具屋さん)のイングヴァー・カンプラット(スェーデン・2兆0900億円)。それに独アルディの二人がベスト3。ウォルマート創業のウォルトン家の四人も11位・12位に入っており、小売業関係者が上位に入っている。
アパレル関係のベスト3は、10位にZaraのアマンシオ・オルテガ(スペイン・1兆7400億円)。15位にクリスチャン・ディオール(既号63.ディオールのシルエット)やLVHM(既号203.熟成を待つ一億本)オーナーのベルナール・アルノー(フランス・1兆5700億円)。18位にH&Mのステファン・パーション(スェーデン・1兆3800億円)。国別では米国16人、ドイツ3人、フランスとスェーデンが2人となっている。
2009年版世界長者番付・億万長者ランキングには、日本人が17人ランクインしている。
ベスト10を紹介する。因みに2008年版では24人がランクインしていた。
76位・柳井正(ファーストリテイリング 5700億円)。93位・毒島邦雄(SANKYO 4940億円)。110位・山内溥(任天堂 4275億円)。124位・森章(森トラスト 3990億円)。151位・糸山英太郎(新日本観光 3515億円)。151位・孫正義(ソフトバンク 3515億円)。164位・佐治信忠(サントリー 3325億円)。178位・三木谷浩史(楽天 3230億円)。261位・滝崎武光(キーエンス 2375億円)。305位・伊藤雅俊(7&Iホールディングス 2090億円)。

 Zaraの日本法人ザラ・ジャパンは、1997年に設立された。この時は日本のビギグループとの合弁で、ビギが51%、親会社のインディテックス49%であったが、2005年にインディテックス100%に引き上げられ、スペイン本社の完全子会社となった。日本では東京・渋谷に一号店を出店して以来、東京を中心として各都市に32店舗を展開し、昨年9月には世界で4000店舗目を銀座に出店した。
世界各国で快進撃を続けていたZaraだが、世界同時不況に突入したこともあり、2008年の業績では苦戦を強いられ、2009年の出店ペースを減速すると発表した。3月25日のAFP国際ニュースによると、2008年は新規開店や改装費に1240億円を投入したが、2009年は790億円にまで削減する予定。2009年の新規開店見込みは370から450店舗程度で、2007年の560店舗、2008年の573店舗と続いていた増加傾向から大幅に減少する。
インディテックスの2008年営業利益は1655億円だったが、世界的な経済危機が深まった第4四半期は3.6%落ち込んだという。売上高は前年の1兆5322億円から、1兆3800億円となり、こちらも第4四半期は減速した模様。しかし、積極的な海外進出が功を奏し、スペイン以外での国際市場売上比率は62.5%から66.0%に増加した模様である。
世界アパレル専門店の売り上げランキング(2008.09.03日経MJによる)では、GAP1兆7402億円、インディテックス1兆5322億円、H&M1兆3710億円の順となっている。日本勢はファーストリテイリングが5855億円で7位、しまむらが4119億円で12位と健闘している。


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