|
小売業の販売不振に歯止めが掛からない状態が続いている。深刻なのが百貨店業界である。日本百貨店協会の調べによると、2008年の売上は前年比マイナス4.3％。昨年12月に限ると9.4％減と、調査を開始して以来最悪の数字と成っているという。衣料品においても、現在絶好調を続けているユニクロを運営するファーストリテイリングなどは例外として、全体では18ヶ月連続、美術・宝飾・貴金属にいたっては22ヶ月連続で前年実績を割り込んでいる。地方では百貨店が総取りしていた高級ブラント品販売を、最近では円高・ウォン安を背景に、韓国に横取りされている。日本から韓国への定期便が、26空港で週に418便も飛んでおり、ウォン安で旅行客が増えた韓国に、限られた需要を奪われている。
地方百貨店は地域経済の顔とも云われる。北海道経済の顔でもあった丸井今井は１月29日に民事再生法の適用を申請。丸井今井は新潟県三条市出身の創業者・今井籐七が、1872年に札幌で小間物商を創業。その後は日本経済と歩調を合わせるように成長し、株式会社へと法人組織にしたのは1919年だった。北海道一の高級百貨店として認知される一方、札幌市民を始め道民に親しまれ、函館・小樽・釧路・苫小牧・旭川などにも出店。しかし、バブル崩壊後の1990年代不況は、特に北海道が深刻だった。1997年にメインバンクであった北海道拓殖銀行の破綻、それに追い打ちを掛けるように、創業者一族の公私混同した経営が発覚して、深刻な経営危機に陥った。2005年に小樽や苫小牧店、翌年にも釧路店を閉鎖。札幌・函館・旭川は会社分割により新社に移管し、伊勢丹の経営支援を仰ぐ。それでも経営は改善せずに今年１月に倒産した。再建には高島屋が名乗りを上げたが、条件面で折り合いがつかず、伊勢丹に支援を受けていた経緯もあり、三越伊勢丹ホールディングス傘下として再建することになった。三越伊勢丹は新会社の札幌丸井今井と函館丸井今井を設立し、千歳空港店を含む札幌店と函館店は、それぞれの新会社に営業を譲渡。空港ショップを含む旭川店と、小樽・釧路・苫小牧の外商営業所は７月20日に閉鎖された。
丸井今井のメインバンクは北海道銀行だった。昨年のリーマンショックで多額の損失を出した北洋銀行も重要な取引銀行だった。地元の顔でもある老舗百貨店の危機を、地場の金融機関が支えきれないのが現状で、これは北海道に限ったことでは無いようである。
百貨店と同様に資金パイプが細っているのが家電量販店である。百貨店業界以上に薄利な家電小売業界は、取引先である家電メーカーが有形無形の資金援助をして、業容を拡大してきた。最近まではヘルパーと呼ばれる販売応援社員が、メーカーから販売店の店頭に派遣されてきた。これと販売数量に応じた販売奨励金がメーカーから支払われ、この二つが量販店にとっては、経営の大きな柱になっていた。しかし、家電メーカーも世界的な不況で、無い袖は振れない状態で、ともに大きく削減されるようになった。販売応援社員については、労働形態が労働者派遣法にも抵触するとの指摘もあり、困難となっている。
昨年10月30日に秋葉原を地盤とする九十九電機が民事再生手続きを開始。最近になってラオックスの経営危機が云われており、経営破綻の原因は金融環境の激変による資金繰りの悪化とされる。九十九電機はヤマダ電機が事業を継承。ラオックスは中国企業による救済的提携が報道されている。景気の悪化で信用リスクが高まり、中小規模の家電量販店に対する、メーカーや卸売業者の姿勢が一段と厳しくなっている。特に九十九電機の破綻やラオックスの危機後は、与信圧縮の傾向があるという。量販店はメーカーへの支払を遅らせるほど、手元資金は潤沢になる。この資金回転の差が、薄利業界の資金繰りを支えてきた。最近ではメーカーから支払サイトの短縮や取引額に応じた保証金の積み立て、現金取引の要求まであるという。
一方では、消費者サイドからの信用も低下している。例えば値引き分をポイントで付与している販売方法である。量販店にとつての建前は、リピーターの確保であるが、本音は発行と使用の時間差による資金調達手段でもある。だが消費者にとっては値引きの先延ばしであり、量販店が倒産しないことが前提である。ネット社会の今日、破綻懸念などの情報が流布され、ポイントの取付騒ぎが起こらないとも限らない。百貨店にしろ、家電量販店にしろ、販売量の拡大策が招いた呪縛に陥っている。
消費者に量よりも質を提供する経営で成功している企業を紹介しよう。
和菓子の老舗「虎屋」（既号64.伝統とは革新の連続）は和菓子のトップブランドである。皇室の御用達としても広く知られている。創業は定かではないが鎌倉時代の1241年からの歴史があり、室町幕府後期の戦国時代には「とらや」を名乗っていたという。460年前ポルトガル人が種子島に漂着した頃のことである。1600年頃の当主黒川円仲が中興の祖と云われており、現在の黒川光博社長はそれから数えて17代目にあたる。「塩瀬総本家」（既号143.日本の味・饅頭屋繁盛伝）1467年に応仁の乱が起こり、京都は焼け野原となってしまった。戦乱を避けて京都を離れた林家は、三河国（愛知県）設楽群塩瀬村に住むようになった。林家が塩瀬村で作る饅頭が評判を呼び、「塩瀬」が饅頭の代名詞にもなった。やがて林家の姓を「塩瀬家」に改めた。スタインウェイ（既号165.ピアニストの憧れ）のピアノは深さと豊かさを備えた低音と、煌びやかな高音。小鳥がさえずるようなピアニッシモから、二千人のコンサートホールでも響き渡るフォルテまで。「比類なき響き」と称される名作に、世界中のピアニスト達が憧れてきた。福島県・郡山「柏屋」（既号174.餡はまごころで包む）は、1852年に奥州街道の岩代国安積群郡山宿中町本陣の隣にて、本名善兵衛が門前の茶屋として饅頭の製造を始めた。本名善兵衛はたっぷりの餡が入った、皮の薄い饅頭を考案し、旅人の疲れを癒した。日本酒「浦霞」ブランド（既号183.浦の松風霞むなり）を醸造しているのは、宮城県・塩釜市に本社を構える蔵元・佐浦である。八代将軍・徳川吉宗が享保の改革を推し進めていた 1724年（享保9年）創業の老舗造り酒屋である。石川県・和倉温泉加賀屋（既号195.プロが選んだＮＯ１旅館）はプロが選ぶ日本のホテル・旅館100選において、28年連続で総合1位の評価を得た。83年には二度目の昭和天皇の宿泊を賜り、陛下は女将に「元気でやっているかい」と、声を掛けた。女将は感激で身が震える思いがしたという。後日、女将が著した奮闘記のタイトルを、陛下から頂いた言葉「元気でやっているかい」として出版した。エルメスは（既号220.御すのはお客様）馬具工房として創業した、フランスの老舗ファッション・ブランドである。自動車の発展による馬車の衰退を予測し、鞄や財布などの皮革製品の製造販売に事業転換したことで成功し、創業以来170年の歴史を誇る。石川県・七尾市の天池合繊（既号249.天女の羽衣）は世界一軽くて薄い服地「天女の羽衣」を開発し、パリやミラノのファッション界にフワリと舞い降りた。肌触りが絹のように滑らかで表面は水面が波打つような光沢があり、手に取ると生地がフワリと浮く感じがする。１�屬僚鼎気鷲當未寮乎呂覆蘓�百グラム、軽いと言われる生地でも40〜50グラム、それが天女の羽衣の重さは10グラムしかない。
不況時には業容を拡大しない家業的経営と、職人的な技を持つ企業は強い。好況時に売れるからと云って拡大経営に走ることが、一番危険なことを歴史が証明している。拡大すれば質が追いつかなく、商品価値を下げる。設備投資や運転資金が嵩み、業績は景気の波に大きく左右される。バイオリンで有名なストラディバリウスも、チェロは一年に３台しか作らないという。高値で売れて売れ残りの心配がないからと、一年に100台も作れば質が維持できるとは思えない。儲かるからと云って大量生産し生産は外注や派遣などの流動性の高い社員にすれば、職人的技の継承はおろか、お客様へのもてなしの心を持つことなど不可能だ。企業は永遠であらねばならない。ならば、企業は売上高などの量だけで勝負するモノではなく、質を追求して継続させることが必要だ。近代経営論は老舗の経営には、馴染まない面が多々ある。経営者や株主が拡大に走ると、自分達のブランド価値が、何所から生まれているかを見失い、商品価値を生んでいる技を蔑ろにする傾向も見られる。
企業内の全ての人が「自分で自分を雇ってみる」発想を原点に、自分しか提供できない質の良い商品やサービスを生み出しているか、改めて己に問うて見ることも必要かも・・。
|
