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景気の低迷で消費不況が続く中、買ってきた服に飾りを付けて楽しむ「プチデコ・ブーム」が注目を集めている。ユニクロ(既号161.世界ブランド「ユニクロ」)で買った服に、自分流の手作りアクセサリーを付け加えて楽しむことから、ユザワヤあるところにユニクロありとまで云われる。最近はホームガーデンを楽しんだり、自分で弁当を作る弁当男子がいるかと思えば、手芸を楽しむ手芸男子が登場するご時世である。主婦はもちろん若い女性達も、手作りホビーを楽しんでいる人たちが大勢いる。そしてブームは節約のための手作りから、自分流を表現するための手作りへと変化してきた。そんなブームを牽引しているのがユザワヤである。ユザワヤは東京都大田区西蒲田に本社を置く、手芸・工芸などのホビークラフトや雑貨のチェーン店である。創業は1955年10月、東京・蒲田で湯沢屋毛糸店として、わずか4坪の店からスタート。屋号は創業者である現会長・畑中利元の妻の旧姓に由来している。畑中は1930年に愛知県で生まれ、上京後は呉服問屋などに勤めたが、何れの会社も廃業となり、やむなく独立することになる。創業当初は毛糸や布地などの服飾材料を格安販売していたが、その後は手芸関連として工芸、園芸、文具、模型なとのホビー材料、布地関連として紳士服地や紳士・婦人服のイージーオーダーなどに販路を広げていった。常に顧客目線を忘れず、廉価販売を心掛けた。キャッチコピーを「世界のホビーハウス」としているように、世界最大級のホビーショップに成長。毛糸やボタンは1万種類。アクセサリー用ビーズは2万種類。鉄道模型に陶芸の材料。一人でも欲しい材料があると云えば何でも仕入れ、今では70万アイテムを揃えている。顧客が必要なときに、いつでも買えるようにと、元旦も営業する年中無休である。商品の買い付けは創業以来すべて現金決済。学校まで創り70種類のコースを設け、手作りファンを育てる。手作りファンとなった生徒は、ユザワヤのヘビーユーザーとなっていく。
百貨店が低迷する中でH&M(既号217.ファスト・ファッションの雄)やユニクロなどの、ファスト・ファッション業態に人気が集まっている。そんな中で自分流の「世界で一つだけのオリジナル」を、求める新たな客層がユザワヤに押し寄せる。その集客力を狙って百貨店などからの出店要請が後を絶たない。本拠地の蒲田では5,6,7,10,11号館があり、取扱品目ごとに分散している。蒲田以外では首都圏のターミナル駅前に集中的に出店しており、赤・黒・ベージュ・白を効果的に使った看板により、周辺では抜群の知名度を誇る。以前は独立ビル形式の店舗が多かったが、最近ではフロア貸し切りによるテナント形式で出店。また、商品数を約10万点に絞りこんだ「マイスター・By・ユザワヤ」と呼ばれる小型店の出店を加速させている。町田店、立川店、所沢店、浦和店などの既存店に加え、昨年は川越店を始め、銀座(既号130.世界最高級の街)、新宿、渋谷(既号97.情報発信地・渋谷)にも出店。3月に都心1号店として出店した銀座店は、計画以上の反響を得た。11月に出店した新宿店では、20〜30歳代の若い層が予想以上に多いという。12月に出店した渋谷店でも、10代から20歳代の学生や若年層をターゲットにした商品や売場展開をしている。今年になってからも3月に、横浜駅にできた商業施設横浜ベイクォーターアネックスに出店。7月には川崎さいかや(既号267.雑賀衆末裔の百貨店)7階に23店舗目としてオープン予定。川崎は本拠地である蒲田と近く、沿線の顧客取り込みを狙う。アンテナショップ的に出店していた大阪・なんば店、神戸店、福岡店なども、実利の取れる計画に変更する。今後は首都圏だけでなく、地方へも出店する計画である。
ユザワヤの子会社にユザワヤ芸術学園という学校がある。もちろんユザワヤが販売する手作りホビー材料を使って、種々の作品造りを指導する教室である。蒲田・吉祥寺・浦和・大和・津田沼・上大岡の店舗に併設されている。ユザワヤフレンドクラブとして、ファッション・手芸・工芸・絵画、それに一般教養や子供向けの教室があり、出張による講習会も受け付けている。各教室で行われている授業は、時間内に見学することもでき、入学期は毎月可能となっている。入学金は必要だが入学金有効期間中は何科目でも受講可能で、各校共通となっている。進級は原則として初等科から入学し、修了証書を取得してから上のクラスに進む仕組みになっている。初等科(6ヶ月)、中等科(6ヶ月)、高等科(1年)、師範科(1年)があり、研究科、講師養成講座、指導員養成講座、指導員研究科などが、各教室共通で設けられている。材料費や教材費は実費が必要だか、ユザワヤの販売商品の流用なので格安な設定となっている。材料はユザワヤヤフー店や、ユザワヤ楽天店などのネットでも購入することが可能。定期的に作品の展覧会が催され、その作品は素人が作ったとは思えないほどの秀作が展示される。今までは30歳代から50歳代の主婦層が主流であったが、最近は若い世代の受講生が増えているという。
ユザワヤでは各店舗(一部除く)正面入り口に「創作のひつじ時計」が設置されている。このひつじ時計は、創業者により「優しさと暖かい心を伝える手作りの楽しさ」をテーマに企画された。毎時0分の時報と共に演奏されるメロディが来店客を和ませている。このメロディは「創造の歓びと、その愛」をテーマに、この心を褒め称える気持ちを表現した曲として、小林亜星が作曲した。ユザワヤではマスコットとなっているひつじの角が、クルッと巻いていて数字の6に見えることから「6月6日はひつじの日」としている。今年の第13回WEBコンテストは、この「ひつじの日」をテーマに、ひつじに関する手作りのオリジナル作品を募集し、6日に優秀作品が発表された。今年の最優秀作品は「虹を渡るひつじカー」であった。最優秀賞にはユザワヤ商品券1万円相当と、副賞としてメリーチョコレート(既号34.バレンタインとチョコ)から「メリーちゃんの羊」詰め合わせセットが贈られた。今回はメリーチョコレートとのコラボレーションで企画され、メリーチョコレートのひつじキャラクター「メリーちゃんの羊」柄のプリント生地、お菓子の詰め合わせセットも販売された。ユザワヤと同じようなジャンルには東急ハンズ、ロフト、オカダヤ、伊東屋などがあるが、ホビークラフトの大型総合専門店として取扱商品は、質量において群を抜いている。1955年に創業した湯沢屋毛糸店は、1963年に商号を株式会社ユザワヤに変更。2008年にグループ関連7社を吸収合併して、現社名・ユザワヤ商事株式会社となる。昨年2月期の売上高は約422億円。ユザワヤの店内で感じる暖かさは、手作り素材が持つ温もりのせいだけではない。創業以来培ってきた顧客や、仕入れ先に対する信頼に裏打ちされているからである。経営陣と従業員、そして顧客と取引先との信頼関係に因って、紡がれてきた歴史が大きな財産となっている。一代で築いた名経営者・畑中利元会長のサクセス・ストーリーは、6月20日(日)の朝7:30〜8:00にTBS系列の全国放送「応援! 日本経済 がっちりマンデー」で語られる。会長からビッグなプレゼントもあるとか。是非、ご覧あれ。
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